辻仁成「人の一生というのは誰にもわからない」 一緒に住み始めた子犬は今日もぼくを魅了する
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
三四郎の存在が、62年も生きたぼくの精神のくぐもりを浄化させてくれる(写真:辻仁成さん提供)
“犬は友だち、家族、道しるべ。息子が巣立ったあと、ぼくの人生にそっと寄り添う。”
パリ在住の作家、辻仁成さんのもとにミニチュアダックスフンドの三四郎がやって来たのは2021年冬のこと。生後4カ月の子犬が3歳の誕生日を迎えるまでの日々。辻仁成『犬と生きる』より抜粋・構成してお届けします。
フランスで三四郎と生きる人生
1月某日、人の一生というのは誰にもわかるものではない。昔の自分は、今の自分の人生を全く想像することが出来なかった。文化的には影響を多少受けていたが「フランスで暮らしたい」などと思ったことさえなかった。でも、押し出されるように、ぼくはある日、日本を離れることになった。ここを目指して生きてきたわけではないのに…。
これは本当に偶然の積み重ねで、それを言えば、うちの息子は日本人なのにパリで生まれ、ここフランスで成人を迎えた。彼こそ、なんでぼくだけ、と長年思って生きてきたはずだが、誰のせいでもない、これを運命というしかない。
そして、気が付けば、どこからともなく不意に子犬がやって来て、ぼくは迷わず、三四郎、と名付けた。その子は今日もぼくの腕の中にいて、ぼくをすっかり魅了し、しかも彼はぼくを頼り切って我が家に普通に居座っている。
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