辻仁成「人の一生というのは誰にもわからない」 一緒に住み始めた子犬は今日もぼくを魅了する
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ぼくは孤独で上等と思って生きているけれど、犬は彼らにしかないある種の能力で、そういう意固地な人間の孤独と思い込む悪い部分を中和させてくれる。
なので、孤独の居心地が不意によくなるのだ。孤独を隠す必要がないということがますます、わかってくる。
子犬がぼくに与えている幸福
犬には、人間にはない、スピリチュアルな波動があって、これは個人的な見解なので、科学的根拠はゼロなのだけど、波長が合えば、その犬から与えられるエネルギーで、自分の中の悪い影が駆逐されていく、ような気さえする。
わずか四か月しか生きていない三四郎の存在が、六十二年も生きたぼくの精神のくぐもりを浄化させてくれるのだから、頭が下がる。そして、この子を思う時にこぼれる笑みには、人間の心の病んだところから湧き上がる、相手を打ち負かそうとするアイロニーなど一切含まれておらず、一方で、子犬に導かれるこの無垢な幸福を無抵抗に受け止めてしまう自分が存在していたことを知ることも出来、思わず、感動している始末である。
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飛行機に乗って旅に出る際は、機内持ち込み犬バッグに潜り込む(写真:辻仁成さん提供)
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