ビジネスで活かす電通「鬼十則」 柴田明彦
心理学的に説明すれば「達成欲求」「親和欲求」「権力欲求」のうち、ビジネスで成果を上げるには「達成欲求」が大切と言っているようにも読める。
ただやみくもに行動しても成果は出ない。「自分の仮説の実現可能性を追求する行動力を持ち、
非実現の際に検証を見極めて、成功と失敗の経験値をストック」して「総合的な企画力を進化」させていく(第1条21p)。
著者は「創造力」に加えて、「想像力」も重要だと説く。ただし一般の想像力ではなく、確かな情報収集に基づいた想像力だ。企画立案で陥る罠のひとつに“想像力の欠如”がある。
たとえば消費者ニーズを捉えるマーケットインによる商品企画が失敗する理由は、間違って消費者ニーズを想定しているからだ。これが想像力の欠如であり、欠如の理由は情報が正しくないからだ。より精度の高い情報を得るには、より多元的に、より情報発信源に近いところで収集しなければならない。
鬼十則第2条では、スピード感の重要性が語られる。著者によれば、「社会環境は“ストレス・フリー”へと変貌している。ストレス・フリーの背景には、コンビニ、ATM、新幹線、インターネットなどの出現がある。
便利さに慣れているので、「時間を要する」「待つ」ということに異様にストレスを感じるのだ。そして世の中全体が極力「お金をかけずに」「時間をかけずに」「無駄な手間や労力をかけずに」といったストレス・フリー社会にシフトしている。
だから「社に持ち帰って検討しまして、後日再度ご提案します」という“化石化した営業姿勢”で競合他社に仕事を奪われてしまう。組織も個人もスピードアップした判断が求められる(42p)。
そのために必要なのが「仮説力」だ。「仮説」→「実行」→「検証」のサイクルを循環させて「仮説力」を鍛える。朝刊を読む時、電車の中、会議、食事、訪問先、会合の場などで、すべての起こり得る視野開示書に対して「もし自分だったら」と仮定し、当事者意識を持って、考えることから仮説力を高める修練が始まる(44p)。