実はUSスチールは、高炉よりも電炉のほうが優秀で期待が持てるのだ。2019年にスタートアップであるビッグリバー・スチールを傘下に収めたもので、電炉が2基(計330万トン)あり、さらに2基(計300万トン)を建設中である。
ただし電炉は南部のアーカンソー州なので、労働者はUSWに加盟していない。USWが日本製鉄による買収に反対してきたのは、たぶんこの辺に真の理由があるのだろう。つまり「お前たちは電炉だけ残して、高炉は捨てるつもりだろう」と疑っているわけだ。
ほとんどの国において、製鉄業は高炉が中心で電炉は補完的な役割である。日本でも世界全体でも7対3くらい、中国に至っては9対1くらいである。
ところがアメリカは逆に3対7で電炉が優勢になっている。石炭を使って鉄鉱石を溶かす高炉ではどうしてもCO2が出てしまう。しかし、スクラップを溶かして製鉄する電炉は排出量が少なくて済む。高炉が24時間操業であるのに対し、電炉は市況に合わせて生産できるというメリットもある。
「プランB」という選択肢があるかもしれない
つまり斜陽となって久しいアメリカの製鉄業では、いち早く「高炉から電炉へ」という構造転換が進んだのだ。日本製鉄としては、ビッグリバー・スチールの技術を日本国内の電炉に転用するだけでも、かなりの生産性向上が得られるはずである。日本国内の電炉はハッキリ言って少数乱立状態。これを再編できれば、それだけで日本経済の「伸びしろ」と見ることも可能であろう。
「あきらめる理由も必要もない」――こちらは1月7日、日本製鉄の記者会見における橋本英二会長の発言だ。橋本氏の構造改革の結果、日本製鉄は年間5000億円程度の粗利が出る会社になった。
4年分の利益でUSスチールが買えるのなら、十分に勝負になるというのが腹の内であろう。ただしこの買収には、ビッグリバー・スチールの電炉といううまみもついている。最悪、「電炉だけ買う」というプランBもあるんじゃないだろうか。そんな「落としどころ」があっても不思議はないと思いますぞ(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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