そもそも単なる不動産王(単なる、というのも変ですが)だったトランプ氏が2016年に大統領選に出馬するまでになったのは、出演していたテレビ番組で気に食わない相手に対し「You are fired!(お前はクビだ)」と言い放つ台詞が痛快だということで国民的な人気者になったことが始まりです。ある意味彼の「毒舌」はキャラとして許容されてきたのです。
そして、政敵であるバイデン大統領に対する攻撃ではしばしば「バイデン」と呼び捨てにしています。
するとどうでしょう。本来なら品格を欠く言葉使いとして眉をひそめられるはずが、バイデン政権に不満を持っている層からするとスカッとする印象を受けたのか、トランプ支持者を中心に公の場で「バイデン」と呼び捨てにする人が増えてきたのです。
いかにもアメリカ社会の抱える分断を象徴するような話ですが、とにもかくにもアメリカ国民、そしておそらく当のバイデン大統領自身も苗字で呼び捨てにされることには慣れているのです。あくまでバイデン氏に特異な現象であって、個人的にはこの傾向が一般人にまで広がらないで欲しいと願っています。
そんな中で日本製鉄の会長がバイデン氏を呼び捨てにしました。しかしこれはおそらくアメリカ人視点からは「ああ、この人もか」と思われるだけで、あまりざわつく話ではないのです。ただし、同時に前述のような人々と同じグループに属していると思われるので、その点は使う上で覚悟が必要でしょう。
謎が多すぎる日本語の呼び捨てルール
「英語には敬語がなく、日本語は敬語があるから難しい」
よく聞くフレーズですが、日本の文化で意外と複雑なのが「呼び捨てにしてもよいシーン」です。敬語と同じく、相手との関係性によって変わるルールなので、これの使い方が日本語習得をさらに難しくしていると言えるでしょう。
たとえば、自分の会社の社長は、社内では鈴木社長、または鈴木さんと呼びます。
これが客先に行くと「社長の鈴木が」とへりくだるために呼び捨てになります。しかしそうとは知らない外国人は、「お、今日から社長のことはそう呼んでよくなったのかな?」と思って帰りのタクシーで「おい鈴木」なんて呼んでしまい、車内がおかしな空気になります。
そうすると後から上司に呼び出され、「おいベネット、社長を呼び捨てにしちゃダメだろ」と怒られます。え、あなたは今私を呼び捨てにしていますよね?
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