というのも、例えば火星に行って帰ってくるのに、今の技術だと3年半かかります。その間に視力低下などの障害が起こるため、対処法を見つけるには宇宙空間での目の診断が重要だとされているからです。今や宇宙における目の問題は、放射線障害に並ぶ最重要課題の一つだと考えられています。
宇宙に必要なものは、地球でも必要なもの
井筒:なるほど。治療法を見つけるために宇宙で検査する必要があるのですね。
窪田:そうです。すでに国際宇宙ステーションには眼科の検査機器が1台あるのですが、眼科医か検査技師がいなければ検査ができず、半年に2回ほどしか使われていません。しかも台に乗せたプリンターほどの大きさがあるので、必要最小限のものしか積み込めない宇宙船には乗せられない。そこで、自分で目の検査ができるコンパクトな機器の開発が求められていました。
井筒:開発中の機器は、どのようなものですか?
窪田:もともと私たちは、高齢者の在宅医療用に、誰でも簡単に操作できる検査機器の開発に取り組んでいたので、その技術を応用したものです。検査技師がいなくても自分1人で検査できますし、大きさは双眼鏡サイズで、宇宙船にも持ち込めるコンパクトな機器です。
井筒:宇宙飛行士と、在宅医療を受ける高齢者。どちらも自分で簡単に検査をしなければならないことから、発想されたのですね。
最近では、水を使わずに髪や頭皮の汚れを拭き取れるシートや、すすぎが簡単にできる歯磨き粉などが開発されています。宇宙で使うと考えるとニッチな商品ですが、例えば災害時に水が使えない地域でも需要があります。
窪田:宇宙での課題を解決することが、実は身近な課題の解決ともつながっていますよね。コンパクトな眼科診断装置でいえば、宇宙の課題を解消できるものであると同時に、高齢化でニーズの高まる遠隔医療でも使うことができる。だからこそ、長期的な展望で開発に取り組んでいきたいと思っています。