井筒:なるほど。眼球が圧迫されることで、目が悪くなるのですね。
窪田:この現象は、宇宙に6カ月以上いる人の多くに起こっています。眼球の変形をなくすためには、おそらく人工的に重力をかけるしかないと思います。
地球は人間にとって奇跡の環境
井筒:月は地球の6分の1の重力ですが、それでも目への影響はあるでしょうか?
窪田:程度は違いますが、やはりあると思います。なぜなら、もともと人間は重力に対応して体内の圧力のバランスをとるようにプログラムされているからです。下に引っ張る重力の力が弱くなれば、相対的に頭蓋内圧は上がっていきます。それが目には悪影響を及ぼします。
井筒:それだけ人間の体は、地球の重力に合わせられているということですね。
窪田:その通りです。ちょっと寝たきりになっただけで、立ち上がれなくなる人がいることからもわかるように、重力に逆らって生活していることが、いかにすごいことなのか。それが当たり前にできているのは、人間の体が適応してきたからなんです。
もし無重力状態で暮らすとしたら、一気にそのバランスが崩れてしまう。目だけでなく、筋肉や循環器系にも影響が出ます。
井筒:宇宙に半年いただけでも体に変調を来すのですから、いかに地球が人間にとって恵まれた環境なのかがわかりますね。
窪田:本当にそう思います。人間にとって地球がどれほど奇跡的な環境なのかを知れば、環境破壊なんてしていいわけがないですし、同じ地球に住む仲間と争い合っている場合ではない、という気持ちになります。
井筒:宇宙の視点を持つと、地球の見え方も変わっていきますね。窪田先生の会社(窪田製薬ホールディングス)では、SANSの問題に対応するために、NASAと共同でデバイス開発をされているそうですね。
窪田:はい、超小型眼科診断装置の開発を進めています。宇宙における目の問題は、人間がこれから宇宙にどんどん出ていくために必ず解決しなければならない課題の一つです。