ところで、連載第30回(1月14日号)で示したように、ipadの原価構成に占める組立工賃(製造コスト)の比率は3%弱でしかない。仮に(フォックスコンが行ったように)2割引き上げ、かつ引き上げ分をすべてアップルに転嫁しても、製造原価は0・6%上昇するにすぎない。アップルにとっては、信頼性のある生産と、納期に正確に間に合わせられる体制のほうがはるかに重要だろう。
もちろん、賃金引き上げのすべてをアップルに転嫁することはできないだろうから、利益率は下がる。実際、フォックスコンの現在の利益率は2~3%だが、かつては、10%を超えていた。だから、かなり低下したことになる。
重要なのは、日本のメーカーがスマートフォンを作る場合、独自のOSがあるのならともかく、それなしに製造工程に固執するかぎり、いくら頑張っても、2%程度以上の利益率はあげられないということだ。巨大EMSが、安い労働力を使って極端な大規模生産を行っても、2%の営業利益率しか実現できないのだから、それを超えることはできない。
そして、これはスマートフォンに限ったことではない。フォックスコンはブラジルに新工場を計画していたが、これは液晶パネル用だといわれる。この計画は進展していないようだが、もし実現すれば、中国工場並みの大規模生産によって、液晶パネルの価格はさらに下落するだろう。しかも、巨大EMSは、フォックスコンだけではない。液晶パネルにもノートPCにも、EMSが存在する。半導体の製造では、それに特化して大規模生産を行うファウンドリーが存在する。こうしたメーカーが存在するかぎり、製造工程で2%以上の利益をあげることはできない。
言い換えれば、EMSより小規模な工場で生産すれば、赤字になってしまうということだ。いま日本のエレクトロニクス産業が陥っているのが、まさにその状態だ。
そうした事態に対して、「技術があるから勝てる」というのは、間違いだ。あるいは、サムスンを追ったのが間違いである。テレビでは、3Dが起死回生策と言われた。しかし、それは不発に終わった。今度は有機ELだという。こうしたものを追い求め続けて、日本のテレビメーカーは再生できるのだろうか?
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年1月28日号)
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