(第32回)45万人が働く巨大バケモノ工場と戦う?

(第32回)45万人が働く巨大バケモノ工場と戦う?

「フォックスコン」という名が広く知られるようになったのは、ipod nanoの組み立てを行っている同社深セン工場で、2010年5月に自殺者が相次いだからだ。ほぼ同時期に、最新鋭工場で爆発事故が起きて死亡者が出る事件もあった。ちょうどipadが話題を集めていたときだったので、世界中のメディアが飛びついた。「アップル大躍進の陰に中国の地獄工場」ということになれば、由々しきことだ。

その直後に、同社は「自殺しない」という誓約書を書かせたとか、従業員の不満をなだめるため20%の賃金引き上げに応じた、などのニュースも報じられた。

自殺者が相次ぐのは、確かに異常である。しかも、同工場での勤務体制は、1日15時間労働、月給が日本円換算で1万2000円未満というものだ。私は、このような労働条件が劣悪でないと言うつもりはないし、自殺事件で同社を弁護しようなどとも思わない。ただ、この報道に接した人が陥ったであろう錯覚には、注意を喚起したいと思う。それは、深セン工場の巨大さが、われわれの常識を超えているということだ。

同工場の従業員は、45万人と言われる(中国全体では95万人の従業員がいると言われる)。これは、われわれが知っている「工場」とは異質のものだ。これは都市である。しかも、かなり大きな都市だ。日本で言えば、金沢市(約46万人)並みである。

かつて企業城下町と言われた都市が、日本にもいくつかあった。それらと比べても桁が違う。例えば、八幡製鉄所の従業員数は、戦時中に徴用工を受け入れて大増産を行った1944年でも、7万人弱である。50年には、集中排除法によって4万人体制になった。深セン工場はこの10倍以上なのだから、われわれが実感として把握できる範囲を超えているのである。『テッククランチ』の深セン工場探訪記は、食堂の調理場で調理人が大きなスコップでスープをかき混ぜる様子を、ヒロニエス・ボッシュの絵のようだと言っている。そこでは、毎日200頭の豚が調理されるのだそうだ。

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