フォックスコンでの自殺者率は、年間10万人当たりに換算すると6・4人となるが、これは中国都市部の自殺率とほぼ同じだとの指摘もある。フォックスコン工場での自殺記事を読んだ人は、それまでの常識で「工場」を想像したに違いない。そして、「一つの工場で月10人を超える自殺者が出るのは異常だ」と感じたに違いない。しかし、異常なのは、自殺者数でなく、工場の巨大さなのである。フォックスコンは、これまでの常識では理解できないバケモノ企業なのだ。
労働力不足経済に入りつつある中国
フォックスコンが20%という大幅な賃上げに同意したのは、自殺者対策だと報道された。確かに、先進国の基準で言えば、この賃上げ率は非常に高い。しかし、中国の基準で言えば、格別驚くには当たらない。事実、最近の中国における賃金上昇は著しい。04年以降08年までの製造業の平均賃金上昇率は、12・5%、11・8%、14・4%、16・0%、15・4%となっている。経済危機後の09年にも、9・9%の上昇を示した。内陸部も、水準は沿海部より低いが、賃金上昇率は沿海部を超えている。だから、2割の賃上げは、自殺事件への対応という側面はあるのだろうが、中国の一般的な賃上げ事情を反映している面も強いのだ。
これは、中国経済が「ルイスの転換点」(工業化の進展によって、農業部門の余剰労働力が底をついた状態)を迎えたためだと言われる。実際、09年夏以降、農民工(出稼ぎ労働者)を募集してもなかなか集まらない「民工荒」(労働者不足)現象が生じていると言われる。この背景には、工業化の進展だけでなく、一人っ子政策の影響で、高齢化と少子化が深刻な問題になっているという事情もある。