しかし、新しい企画について信頼できる顧客からの評価の声を拾ったり、競合会社の情報をもらったり、納品した後の成果についてフィードバックを受けたり、そんなことが提案活動そのもの以上に業績を上げるベースとなったし、企画部門とのコミュニケーションは密なほうだったとは思います。実際は私はピンときていなかったけれど、当時の上司たちも私にそういった視点を持つよう、強く求めてくれていました。
企画担当に異動して、見えてきたもの
そんな私が営業を8年やったころ、商品企画担当マネジャーへの異動人事がありました。30歳ごろです。私は、それまで結果も出してきたし、これまでにも商品企画部門に自分の意見を伝えきたし、この人事でこれからは思ったような商品や企画がリリースできちゃうのかも!とワクワクしていました。スタッフたちの「あなたに何ができるの?」といった視線も気にならないほどの有頂天ぶりでした。でも、配属されたあこがれの商品企画の仕事は、想像していたのとはまったく異なっていたのです。
もちろん、これまでに触ったことのないような大きな数字を扱うとか、それまでよりずっと偉い人たちとの会話が増えるといった、想像どおりのこともありました。でも、何かの企画を決定するとき、「営業のマーケティング力」というべきものが非常に重視されていることに気づいたのです。
アイデアが秀逸だからといって、それだけの根拠で企画をリリースすることはないのです。どのような顧客やマーケットがそれに価値を感じるか、営業担当はどのような理解をして顧客に提案するか、どのレベルの営業担当であれば提案できる難易度なのか、などなど、「営業」は商品企画にとって切っても切り離せない要素だったのです。
それを痛感し、ひとりの思いつきだけでは何も動かないことに気づいてからは、社内の営業担当への行脚を繰り返して、ヒアリングする毎日を過ごしたものです。当たり前のように聞こえるかもしれないのですが、案外、営業担当は、このような重要な役割を担っていることに気づけていない場合があるのではないかと私は思います。だから、営業とは「売る」ことだと思ってしまう。
売り上げを作ることももちろん重要なのだけれど、営業とは、マーケットの兆しや顧客の真のニーズをつかみ、それを商品やサービスにフィードバックする、そしてそれをまたマーケットの中でより磨いて価値を出す、そういった役割のことを言うのではないでしょうか。
私が責任者をやっていた事業では、営業を「売る人」ととらえることはしていませんでした。「マーケッター」ともいうべきこの役割を、いつも言葉にしてメンバーにも伝えていました。製販一体組織だったから、ということもありますが、営業と企画はいつも一緒に会議をし、よくクライアント先にも一緒に出掛けていました。
既存の営業部隊が反対しても、どうしても実現させなければならない先行的な技術がある場合は、徹底的に勉強会をやり、テスト投入やその分析なども共に実施しました。だからなのか、決まったものだけを「売る」という意識ではない営業担当たちは、本当に高い当事者意識で仕事をしてくれていたと思っていますし、「営業なんて未来がない」と言われたことは、その数年では一度もなかったと思います。
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