知られざる「日大」裏面史、続発する不祥事の深刻 「魔窟」に群がった政界黒幕から暴力団組長まで

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特に、薬物問題発覚からアメフト部を「廃部」にするまでの、日大執行部の、迷走に迷走を重ねるさまや、「パニック」ともいえる学内の混乱ぶりは、関係者でなくとも目を覆うばかりだ。が、著者は〈颯爽と登場した理事長の林真理子は単なる神輿ではなく、実は迷走の元凶だったのではないだろうか〉としたうえで、こう断じるのだ。

問題は事件や不祥事が発覚したあとの組織のあり様である。わけても日本最大の高等教育機関である日大の首脳陣が、どのように薬物事件に向き合うか。そこに関心が集まるのは必然だった。しかし、日大は完全にその対応に失敗した。

他の大学不祥事とは比べ物にならない深刻さ

これまで、あまたの経済事件を取材し、JALやJR、そして首相官邸など、巨大組織の病理を描いてきた著者の判断だけに説得力が半端ではないが、著者はさらに、135年に及ぶ日大裏面史の取材を踏まえ、同大がおかれている現状を、以下のように分析する。

日大は古く古田重二良や田中英壽の時代から権力闘争を繰り返し、組織のまとまりを欠いてきた。それは林体制になって改善されるどころか、ますます酷くなっているというほかない。ことガバナンスという点でいえば、むしろ豪腕で知られた古田や田中時代のほうが機能してきたかもしれない。(中略)高等教育機関でこれほどガバナンスが働かない組織、首脳たちのお粗末ぶりは、他の大学不祥事とは比べ物にならないほど深刻だといえる。

この分析がいかに正鵠を射ているかは、薬物事件の後も、重量挙部や陸上部、スケート部の指導者らによる横領疑惑や、ラクビー部員による大麻問題など不祥事が相次いで発覚していることが証明している。さらには、薬物事件で明らかになった林執行部のお粗末な対応や、隠蔽体質に嫌気がさしたのか、日大では2024年度の入学志願数が過去に例を見ないほど、減少しているというのだ。

一言でいえば、そもそも彼女は、その「任にあらず」ということだったのだろう。本書が上梓された後も、現体制が続くようであれば、だ。残念ながら、この大学の未来を悲観せざるをえない。

(敬称略)

西岡 研介 ノンフィクションライター

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にしおか けんすけ / Kensuke Nishioka

1967年、大阪市生まれ。1990年に同志社大学法学部を卒業。1991年に神戸新聞社へ入社。社会部記者として、阪神・淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。 1998年に『噂の眞相』編集部に移籍。則定衛東京高等検察庁検事長のスキャンダル、森喜朗内閣総理大臣(当時)の買春検挙歴報道などをスクープ。2年連続で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞を受賞した。その後、『週刊文春』『週刊現代』記者を経て現在はフリーランスの取材記者。『週刊現代』時代の連載に加筆した著書『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)で、2008年、第30回講談社ノンフィクション賞を受賞。ほかの著書に『スキャンダルを追え!――「噂の眞相」トップ屋稼業』(講談社、2001年)、『襲撃――中田カウスの1000日戦争』(朝日新聞出版、2009年)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(松本創との共著、講談社、2012年)、『百田尚樹「殉愛」の真実』(共著、宝島社、2015年)、『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』(東洋経済新報社、2019年)などがある。

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