そして、「帝王」となった田中は、私淑していた古田に倣うかのように、政官財から右翼、暴力団にいたる日本の地下水脈とつながり、巨大利権と化した田中帝国・日大には、さらに多くの有象無象が群がっていくのである。
著者は、古田と田中という、強烈な権力志向と、それに見合うだけの豪腕を兼ね備えた2人の「怪物」の軌跡をたどることによって、昭和から令和に至る日大の裏面史を活写していくのだが、その田中帝国は2021年、前述の通り、背任事件と脱税事件で崩壊する。
年商約300億「株式会社日大事業部」の実態
それらの事件の温床となったのが、田中の肝煎りで設立された「株式会社日大事業部」だった。著者は、事件後に設置された第三者委員会の調査報告書だけでなく、内部証言に基づき、この「鉛筆からロケットまで」を扱い、300億円近い年商を上げるといわれた組織の実態を明らかにしていく。
そして、その綿密な取材から導き出した結論の中で、日大と同様に、事業会社を擁し、多額の収入を得ている他の私立大学に対し、次のような警鐘を鳴らすのだ。
その田中が失脚し、日大から追放された翌年の2022年、第14代理事長に、同大芸術学部出身で、人気作家の林真理子が就いたことはご承知の通りだ。が、大学内外から刷新を期待されていた林執行部は、田中体制の一掃に拘泥するあまり、学内に新たな混乱を招き、ガバナンス機能を失い、迷走を始める。
それが露呈したのが2023年、警視庁が摘発した「日大アメフト部員による薬物事件」と、事件を受けて開かれた林理事長ら日大3首脳による「炎上会見」だった。
著者は、「事務局長会議議事録」などの内部資料や、前アメフト部監督、日大幹部職員ら関係者の証言に基づき、薬物問題が学内で浮上した段階から、事件化するまでの過程を丹念に追うことで、林執行部のガバナンス体制の欠如、それに伴う内部の混乱の様子を詳らかにしていく。
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