蓄電池は事業性が見込める数少ない脱炭素ビジネスの1つだ。
10月、JR前橋駅から車で20分ほど走ると、収穫間近の稲穂が風になびく田園風景が一帯に広がった。その一角に、JA全農ぐんま職員の設楽(したら)匡志さんの自宅がある。設楽家は100年以上続く米農家だ。
その自宅屋根には太陽光パネルが設置されている。伊藤忠商事は全農と提携し、前橋で地域分散型電源の実証実験を始めた。設楽さんはそれに応募し、自宅に太陽光パネルと蓄電池を置いた。4月からは、発電した電力の自家消費に加え、JAグループのスーパーへの売電が始まった。
AIが最適化して取引を約定
この実証実験では、JAでんきの契約農家とスーパーが太陽光で発電した電力を蓄電池にため、それを直接取引し合う。電力の取引は、伊藤忠の子会社「TRENDE」が開発したプラットフォーム上で行われる。
設楽さんは月150〜400キロワット時、金額にして1000〜4000円の電力を売っている。プラットフォームに搭載されたAI(人工知能)が30分ごとの需給バランスを事前に予測し、売り手と買い手双方の経済メリットを最適化して取引を約定させる。
自家発電した電気を使ったことで、それを除いた設楽家の夏場の電気使用量は例年より7割減り、支払い電気料金は3分の1になった。一方、太陽光パネルと蓄電池の設置費用は計約350万円。一部は補助金が出るとはいえ、思い切った買い物となった。「蓄電池を入れたからといって儲かるわけではない。ただ防災の観点から蓄電池はもともと欲しかった」と設楽さんは話す。
TRENDEは取引電力量ごとにシステム使用料を、親会社の伊藤忠は蓄電池など再生可能エネルギー機器の販売機会や事業のノウハウを得る。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら