「そうだね」というチームメイトの脳に入る言葉は、相手と闘う競技の場合にも効果を発揮します。
馬場美香さんが卓球女子日本代表の監督だったときの話ですが、「53年間、中国に勝てていないんです」と言われました。それを聞いて、私は即座にこう返しました。
「勝ったことがないって言ったら、もうおしまいです。逆に『きょうは中国選手団の調子が悪い。私は絶好調』って大きな声で喋ってから試合に入ってください」と。
私の言葉を監督だけでなく選手も皆、きょとんとして聞いていましたが、実際に彼女らは大接戦を演じてくれました。
同じく卓球の石川佳純選手が現役の頃、「試合の前には相手がどれだけ強くても『きょうは自分の日だ』と思いなさい」と伝えたことがあります。
それを聞いて「自分が勝つと思えば勝つんですね」と石川選手は言いました。彼女から、夜中の3時頃にオランダから電話がかかってきたこともあります。「今、何時かわかるな。夜中の3時だよ」と言ったのですが、卓球に命を懸けていて、それくらい一所懸命でした。
「きょうは自分の日」と強く思うこと
「勝てない」と思った選手は絶対に勝てません。
人の勝負において、技術の差は確かに影響しますが、脳の働きを考えると、弱い者がいつも負けるとは限りません。相手の実力や勝敗に関係なく、「きょうは自分の日」と強く思うことで潜在能力が解放され、番狂わせが起こる確率が高まるのです。
この同期発火という現象について、赤羽(東京都)にあるスポーツセンターで講義をしていたら、たまたまその場にいたテニスの錦織圭選手と、当時はまだ無名の大坂なおみ選手が自分の講演を聞いていました。
錦織選手は帰り支度をしていたところでしたが、私が「勝負になったら、勝つと思った人が勝つんです」という話をしたところ、「面白い」と興味を抱いたようで、一番前までやってきて最後まで聞いていました。
スポーツの試合中には、同期発火という現象がたびたび起こります。
同期発火が起こると、ランクが下の選手が上の選手に引っ張られるようにして接戦を演じます。そのときに「きょうは自分の日だ! 絶対に自分が勝つ」と強く思うと、下のランクの選手が勝つことがあるのです。
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