理論だけで「売れる組織」は絶対につくれない 左右するのは人間的な魅力だ

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人間力を説明するのに、ひとつエピソードをご紹介します。リクルートに勤めていたある日、筆者が所属してた部署のメンバーが、あるカー用品の会社で猛烈に怒られ、出入り禁止になるという事件が発生しました。

筆者はすぐに上司に同行を依頼し、一緒に謝りに行きました。もちろん、お会いはできましたが、商談再開は、けんもほろろに拒まれ、取り付く島もないという様子でした。

筆者は、そのままになるのが嫌で、なんとなくですが、あくる朝、7時半頃にもう一度その会社に行ってみました。すると、3~4人の社員と思しき方たちが、会社の前道路を丁寧に掃除していました。時間の経過とともにその掃除をする人数は増えていき、会社の前の道路だけでなく整然と並んでいる車、また社屋の中など、まるで就業時間前のひと仕事という感じで、淡々とこなしていくのです。

掃除に参加すると……

そこであくる日、もう少し早めに出かけ、その掃除を手伝うことにしました。なぜそこまで会社を綺麗にするのか、また社員の多くがそれに賛同してやっていることが不思議で、その理由を確かめてみたかったのです。

すでに掃除をし始めていたのは昨日と同様で、課長か部長で役職者と思われる方が1名、その方に賛同して率先して参加している部下が2名、そして、もうひとり、用務員(会社の掃除係)風のおじさん、それが鍵(かぎ)さんでした。

結局、この活動は3カ月に及びました。心を込めて掃除をすると心が洗われ、仕事以上の喜びが湧いて来て、止められなかったのです。そしてある日のこと、用務員(掃除係)のような鍵さんから、突然変なことを言われました。

鍵さん:「君は、うちの社員じゃないのかい?」
筆者:「はい」
鍵さん:「どうしてずっと掃除を続けているの?」

 

筆者はなぜ、用務員の鍵さんが、こんなことを言い出すのかよく理解できませんでした。彼は、いつも社員より手を汚す仕事を最後までしつこくやっていましたし、その態度がいつも社員よりも下手(したて)だったのです。

「北澤さん、ちょっとこっちへいらっしゃい」

鍵さんは筆者の追従を促すように社屋の中に入って行きました。

鍵さんは、階段を上がりきったところにある会長室にノックもせずに入っていき、机の前の応接セットに座らせ、「君のような人とは、初めて会った。リクルートという会社はどんな教育をしているのですか? 上司に会いたいので、すぐに連れていらっしゃい」と言って自分の名刺を差し出しました。

そこには、会長 鍵山秀三郎と書かれていました。なんと、今まで用務員と思っていた鍵さんは、この会社、イエローハットの会長だったのです。

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