2000億円を動かした移籍代理人の超絶仕事術 世界のサッカーを動かすメンデス氏を直撃

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「最初の契約に関しては、物事をはっきりさせるために結びます。世界中のクラブや関係者に明確に伝えるためでもあります。その選手を囲い込み、メンデスのものだと縛りつけるものではない。この世界では、残念ながら『私がこの選手のエージェントです』と語るような人物が、5人も6人も出てきます。クラブが偽のエージェントの話を信じてしまうこともある。それを防ぐために、私は最初だけ契約書を作ります。しかし、それ以降、選手との間に契約はありません。私はずっとこのスタイルで仕事をしてきました。私は選手のために全力を尽くしている。信頼関係が何よりも大事なんです」

 ④ ライバルの台頭を受け入れ、業界全体の成長を促す

今春から、FIFAライセンス制度が廃止された。それまではエージェントになるために必要だったライセンスが撤廃され、今では誰もが選手を移籍させることができるようになった。エージェントの中には、この制度撤廃に批判的な見方をする人も多い。

彼らが苦労して取得したライセンスが必要なくなったことで、誰でもエージェントとして選手を動かせるようになった。それは単純にライバルの増加を意味する。

これからはサッカービジネスにおける最低限の知識、交渉経験や語学力がゼロであっても、選手と知りあいというだけで、エージェントとして動き、仲介手数料を狙えるようになる。能力と経験のないエージェントが増えることで被害を被るのは、選手、クラブ、そして既存のエージェントだろう。

しかし、メンデスはそれとは反対のことを考えている。

ライセンス廃止は歓迎すべきこと

「個人的には、ライセンス廃止で門戸が開かれたことは、この業界にとってポジティブなことだと思っています。すべての人々に、それぞれが好きな仕事をする権利はある。これはサッカーに限ったことではありません。誰もが、仕事をする権利を持つべきなのです。そのためには、ややこしいライセンスがなくなったのはよかった」

エージェントへの移籍仲介料は、一般的には移籍金の約10%といわれる。

クラブは仲介料を基本的に公表しておらず、額はケースバイケースではある。しかしFCポルトのように、株主総会で全収支を公表しているクラブもある。2013年、ポルトに所属していたハメス・ロドリゲスがモナコに移籍した際の額は4500万ユーロで、ポルトの収支報告書には、440万ユーロが仲介手数料としてメンデスの事務所Gestifuteに支払われたと明記してある。

もちろんこの数字は移籍やクラブによって変わり、複数のエージェントと折半することもある。スポルティング・リスボンにいたクアレスマをバルセロナに移籍させた際は、メンデスは仲介料を受け取らなかった。

仲介料を10%として計算すると、今夏メンデスには50億円前後の収入があったことになる。自身が顧客にもつクリスティアーノ・ロナウドの年俸よりも多い額を、彼はひと夏で稼いだのだ。

ライバルが増えれば、今後この額が減る可能性もある。しかしメンデスが目指すのは個人の独占よりも、業界全体の成長だ。

「現代においては、人々は公平に同じチャンスが与えられるべきです。これまでライセンスを持っていなかった人の中からも、高い能力を持った優れた人材は出てきて、この世界で結果を残してくれるはずですから」

メンデスがサッカー界で築きあげたネットワーク――選手、クラブ、ファンド、世界各地の富豪とのコネクション――はあまりにも強固で、彼を脅かすエージェントは現れていないという、絶対的な自信もそこには隠されているはずだが。

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