グループリビング・おでんせ中の島に入居するにあたって、どう考えてもほとんどのものを処分しないと17畳の居室には収まらない。
小森さんは手放せないものを3つに分け、取捨要検討の箱も作る。要検討は主に来客用の食器類や値の張る鍋、調理器具たち。これが大きな段ボール10箱にもなった。
さて、これをどうしようかと考えた小森さんは、パッと閃いて、行きつけの美容室に相談したという。
「女性スタッフが10人もいる大きな美容室なので、皆さんが欲しいものがあったらもらっていただき、残ったものは捨ててほしいとお話したら、『ぜひ!』と言ってくださったので、10箱すべて差し上げました」
手放したくないものは、折に触れて何度も読み返してきた本。著名な陶芸家だった父の作品のお茶道具。茶碗は30~40個にもなる。
それから着物。1/3は親しい人へ、1/3は姪や甥の結婚相手に着てもらいたくて次姉宅に運んだ。残り1/3がまだ箪笥2棹分もある。
趣味の手芸作品やアルバムの数々、これまでのさまざまな活動の記録や写真集も捨てられなかった。とても17畳の一室に収まる量ではない。
小森さんはそれらを要・不要で選別することはできなかったし、前に流行した「ときめくかどうか?」という取捨の線引きも、答えは「全部ときめく」だった。
「断捨離」や「終活」と逆行
だが、おでんせのオーナー・藤井康雄さんは、入居前に小森さんにこう伝えたという。
「お部屋には大きな収納家具も備え付けてあるし、荷物用のロフトも用意しています。どうしても手放せないものが多くなってしまったら、無理に手放さないで持ってきてください」
この言葉に小森さんは感激した。見学した高齢者向け施設はどこも「荷物は最小限に」というところばかり。
それは当然だろうと思うし、自宅暮らしでも世の中は「断捨離」や「終活」全盛で、モノが多いことを良しとしない雰囲気もある。
頭で理解していても、愛着あるモノとの別れがこんなに心に重たいことだとは思っていなかった。
かくて小森さんは、終の住処の17畳には収まりきらない量の家財道具や荷物とともにおでんせに移り住んだ。現在、自室には、介護ベッドや着物箪笥、テーブル&椅子、食器棚にライティングビューロー、書棚などの大きな家具がびっしり、いや、きっちり? ジグゾーパズルのように並んでいる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら