「体を横にしてカニ歩きしかできないのよ」と小森さんはいたずらっぽく笑う。本当にその通りだ。持ち込んだ家具以外に、必要に応じて得意の木工で、いくつか小棚も作ったという。
この部屋で小森さんは自分が主催する折り紙同好会のレジュメを作り、お茶会用の和菓子も作る。「優秀な料理助手」の電子レンジをフルに使って、限定4人までの食事会も開催する。
季節の果物を使って得意のタタンを焼くと、1ホールを16等分して居住者全員とスタッフにおすそ分けもする。
「この部屋には使わないものはありません。今までそうしてきたように、私らしく自由にやりたいことをやって暮らすために、すべて必要なものばかりなんです」
お皿1枚にも思い出があり、現役の実用品。小森さんはおでんせへの入居のおかげで、自分のモノへの思いがわかったという。
過去を振り返ることは後ろ向きではない
行きつけの美容室に段ボール10箱分の食器や調理器具を受け渡すことができたとき、長年、使ってきたものが誰かの役に立つかもしれないと思うと、ものすごくうれしかった。手放すのではなく、使ってくれる人に手渡したい。小森さんの非ミニマムな暮らしの根っこにあるのは、この思いだ。
終の住処に持ち込んだモノたちには、小森さんの人生の思い出が詰まっている。
小森さんは年を重ねるごとに過去を振り返ることが多くなった。しかし、それは決して後ろ向きの行為ではなく、楽しい考えごとだという。
「過去を振り返ることで、自分が何歳のときに何を大事にしていたか、何をがんばっていたかを再発見したり、やりたかったことを思い出したりできます。
若い日の自分をほめてあげることは今の自分を大事にすることにつながるし、やりたかったことはこれから始めることができます」
未来は過去が連れてくる。リタイアして老後の孤独にはまりそうになったら、過去の自分から今を生きるヒントや元気をもらってほしいと、小森さんは言う。
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