そんなある日、塾帰りの夜道で少年は姉と米兵がキスしている場面を目撃する。英会話クラブの活動と言いながら、姉は米兵と逢瀬を重ねていたのだ。姉の“女の顔”にショックを受ける少年。しかも、少年と姉の一日違いの誕生日を家族で祝うパーティを途中で抜け出し、米兵の恋人に会いに行った姉は、二人がかりでレイプされてしまう。
しかし、相手が米兵では警察も手が出せず泣き寝入り。そこで、姉に想いを寄せていたチンピラヤクザの男とともに少年は基地に殴り込みをかけるが……。
良くも悪くもアメリカという国の存在を身近に感じる街で懸命に生きる人々の姿を、多感な少年の目を通して描く。歌手として上京することになった向かいの家のお姉さんに、あるお願いをするシーンも含め、少年の性の目覚めも絡めた物語は切なくも甘酸っぱい。
「ガムを一生懸命拾ってたら母親にぶん殴られた」
この作品について弘兼氏は、『文藝別冊 総特集 弘兼憲史』(河出書房新社/2014年)収録のインタビューで「ちょうど僕の子供の頃の話で、もちろんフィクションなんだけど、本当のことも入ってる。(中略)米兵が10円玉とかガムをバーッとまいたのを一生懸命拾ってたら母親にぶん殴られたという、これも本当の話です」と述べている。
ベトナム戦争という時代設定からして、作中の少年と1947年生まれの弘兼氏とでは10歳近く年齢差があるが、岩国という基地の街に育った弘兼氏自身の体験をベースにした作品であることは間違いない。殴り込みをかけたチンピラヤクザの無惨な結末と、その事件を報じる新聞記事は、日米地位協定の問題点を如実に示す。
その弘兼氏がデビュー50周年にして沖縄の米軍基地に反対する人たちを貶めるようなことを描いてしまうのだから、人は何かを得ると何かを失ってしまうのかもしれない。個人的には数ある弘兼作品の中で初期の名作と思う『ホットドッグララバイ』。この機会に多くの人に読んでもらいたいし、誰よりも弘兼氏本人にこそ読み返していただきたい。
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