ガストとサイゼ、「ファミレス衰退」での戦略の違い ちょい飲みに適応と、ファストカジュアルへの移行

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ガストがメニューを拡充している一方、「ちょい飲み」の帝王ともいえるサイゼリヤは、近年メニュー数を減らしている。これも、また別の側面からのファミレスのポジショニングの再構築の事例だ。

それによって、メニューの提供コストが下がり、物価高の現在でもこれまでの値段でメニューが提供できるのだ。ミラノ風ドリアが今でも税込300円で食べることができるのは、ほとんど奇跡に近いといっていい。

サイゼリヤ ミラノ風ドリア
サイゼリヤのミラノ風ドリア。税込300円というのは、信じられない価格だ(筆者撮影)

サイゼリヤは「ファストフード」と「ファミレス」の間にある「ファストカジュアル」という業態を目指している。「ファストフード」のように、低価格でメニューを食べられる工夫の一つとして、こうした戦略を採っているのだ。

ちなみに「ファストカジュアル化」戦略は、サイゼリヤがさまざまな業態開発を通して前々から行ってきたことではあったが、先ほども見てきたファミレス業態自体の状況に対応して、再度、「安さ」という価値観を訴求しようとしている。

サイゼリヤ
ファストカジュアルを目指すサイゼリヤ(筆者撮影)

「サイゼ飲み」がコスパに優れているのは確かだ。ただ、サイゼリヤはアルコールの種類を増やしたり、メニューを増やしたりして「飲み」に特化するわけではない。あくまでも「ファストフード的なイタリアン」として、その店の価値を伸ばし続けている。

逆に、ガストは「ちょい飲み」客にも対応して、「さまざまな人が訪れることのできる」ファミレス業態を、より磨いているといえるかもしれない。その意味では、サイゼリヤとガストは、異なる方向を向いている。

業績好調「日高屋」とファミレスを足し合わせるガスト?

ガスト的な「ちょい飲み」を進めている店としては、例えば、中華料理チェーンとして知られる「日高屋」がある。

早くから、「ちょい飲み」需要を開拓してきたことで知られる日高屋。結果的に、アフターコロナの時代にいち早く適応することになった(写真:編集部撮影)

日高屋は2024年3~8月期の単独営業利益が前年同期比8%増で、売上高は13%増の268億8100万円と、過去最高額を記録。コロナ禍で大きく業績が落ち込んだことは他の店と変わらないが、そこからの回復に完全に成功しているのだ。

『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』書影
『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

先ほども見た通り、コロナ禍を経て「ちょい飲み」需要が増しており、その波に乗った形だろう。

こうした他店での事例も踏まえれば、ガストの「ちょい飲み」化は、さらなる躍進を遂げるかもしれない。

もっとも、「日高屋」のメインの客層はサラリーマンであるのに対し、ガストはより広範囲な客層を狙うことができる。ガストは、「日高屋」とファミレスを足し合わせた「いいとこ取り」のような形になっていくのかもしれない。

いずれにしても、低価格帯ファミレスの中でもそれぞれの戦略に差が出てきているのが現在の状況だ。それらがどの程度成功し、どのような変化を遂げていくのか。注目したい。

谷頭 和希 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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