「死の疑似体験」で彼女が気づいた"母子の呪縛" 「手放す」ことではじめて実感できる関係もある
私はその言葉を聞いて驚きました。「私はママが大好きで、やっぱりいちばん大事でした」という言葉だけだったら、記憶に強くは残らなかったでしょう。しかし、そこから1歩も2歩も踏み込んだ自己認識の言葉にギャップを感じ、驚かされたのです。
「死の体験旅行」で配られる20枚のカードには、自分の大切なものや人、思い出や目標などを書き込みます。それらを取捨選択していくのですから難しい判断を迫られるのですが、なかには自分が想像していなかったような進み方をする人もいます。
残り4枚のなかに想定外のカードが入っていた清水さん(仮名)も、そのひとりです。
「一人旅」のカードが最後に残った意外な理由
20代の女性・清水さんは、物語の後半、残り4枚になったカードを改めてじっくり見つめ直しました。そしてそのうちの1枚「一人旅(知らないところへ)」に対して、「なぜこのカードが残るんだろう?」と、自分でも不思議に思う気持ちがわいてきたと言います。
清水さんは大学進学を機に故郷を離れ、都内で1人暮らしをはじめ、社会人になって数年がたっています。ときおり帰省をすると、母親とはお互いに近況報告をし合う仲のよさです。
じつはご両親は、清水さんが幼いころに離婚をされています。母親はエネルギッシュな反面、病気がちで、入院や手術をすることも珍しくありません。清水さんは「死の体験旅行」のなかで病気になる疑似体験をし、母も病で苦しかっただろうと思いを馳せます。そして、そんな状態のなか、母が自分を懸命に育ててくれていたことにも気づかされたと言います。
だから自分にとってもっとも大切なのは母親で、きっと最後のカードも「母」になるだろう。そう思っていたものの、残り少ないカードに入っていた「一人旅」が気にかかります。そして最後の1枚になったのも、その「一人旅」だったのです。
「病気がちな母親と、あえて離れる時間が大切だと思っているのかもしれない。一緒にいる時間が長いと、母親の体調が悪いとき、どうしても自分の心もざわついてしまい、『どうしよう』と混乱するような気持ちもわき出てきてしまう。だから少し距離を置いて、母と一緒に気持ちが落ち込んでしまうことを避けたいと感じているから、『一人旅』が最後に残ったのではないか」と、あとになって清水さんは口にしてくれました。
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