人間の脳は「150人以上の人」と仲良くなれない 現代社会における「進化のミスマッチ」の問題

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人間は頭がいいですから、どうすれば欲しいものを手に入れられるか、どうすればやりたくないことをやらないで済むかという発明ばかりしてきました。

重い荷物を担ぐのはイヤだから、自動車を作り、早く行きたいから電車や飛行機を作り、石油を燃やし、発電し、一生懸命に考えた。

それで、甘いお菓子や脂っこいお肉を安く手に入れる方法も考えて、食べすぎたりもしています。昔はどこへ行くにも歩かなければなりませんでしたが、電車や自動車に乗って、ドテッと座るようになったので、運動不足も生じています。

「運動療法」がうまくいかない理由

最近の学会で、ハーバード大学の人類学者ダニエル・リーバーマン教授から、とても面白い発表がありました。糖尿病やメタボに対する運動療法によって、きちんと治った人は1人もいないというものです。

「1日1万歩」と言われますが、狩猟採集の時代は、歩くほかにオプションがないので、本当に1日中1万歩以上歩かなければ、30種類以上のものを食べることができなかったわけです。

ところが、そんなことはイヤなので、そうしなくていい方法を一生懸命に考えた。それで身体の具合が悪くなった。

じゃあ「運動しなさい」と言われたところで、我々人間には、「運動する」という本性はありません。そもそも「ほんの少しでもエネルギーはセーブした方がいい」というものにできているからです。だから、運動療法で生活習慣病が治るわけがないということです。

エスカレーターやエレベーターを見たら避けて、階段を見たら喜べなんて言われても無理ですよね。私だって、歩道橋の横にエレベーターがあれば乗りますよ。

同じように、大きな集団になって、よく知りもしない人と一緒に何かをするというのも、人間の本来の本性のなかにはありません。

人が親密さを感じたり、楽しく一緒に働いたりできる人数には制限がある、これは全人類に共通することです。

国民国家が何千万人になろうと、人は、「ダンバー数」に基づくような形で組織を作っている。そして、そうなっていない組織では、ガタガタとまずいことが起きている。それを指摘しているのが本書なのです。

(構成:泉美木蘭)

長谷川 眞理子 総合研究大学院大学名誉教授、日本芸術文化振興会理事長

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はせがわ・まりこ / Mariko Hasegawa

進化生物学者。1952年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程単位取得退学。理学博士。現在、総合研究大学院大学名誉教授、日本芸術文化振興会理事長。『進化とはなんだろうか』『クジャクの雄はなぜ美しい?』『進化的人間考』『ヒトの原点を考える 進化生物学者の現代社会論100話』『自然人類学者の目で見ると』など著書多数。

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