人間の脳は大きく、色々なことを考えなければなりません。そのような脳になったのは、狩猟採集社会の歴史に理由があります。すごく複雑で大変な社会だったからこそ、それを乗り切るために大きな脳が必要だったわけです。
狩猟採集社会においては、5人の親密な家族、15人の仲良し、50人の知り合いがいて、全体で150人ぐらいの人数でうまくまとまっていました。
サピエンス30万年の歴史のうち、29万年は狩猟採集の時代です。農耕牧畜の定住生活は過去1万年、文明が起こったのは今から6000年前で、都市が生まれ、産業革命が起きたのは200年ほど前です。
そこから先は、科学技術によって一気に変わってしまったのですから、現在というのは、長い歴史の最後の瞬間にすぎないわけです。
29万年の狩猟採集時代に、現在の身体と脳の基本的な作りができた。そこから1万年経っても、400世代です。その程度で、脳のような複雑なものが変わるわけがありません。
それなのに、農耕牧畜の定住生活から急に都市が生まれ、それが100万人規模というすごい人数になった。そんなものうまく対処できるわけないよ、そこが進化生物学の出発点なのです。
現代社会は人間の脳にはミスマッチ
私がそれをいちばん認識するのは、時差ボケを起こした時ですね。ライト兄弟が飛行機を発明したのは、1900年頃です。その後、ビジネスや観光のために多くの人が飛行機に乗って移動するようになったのは、1960年頃以降ですから、せいぜい数十年。
地球を何千キロも飛ぶなんていうのは、この身体ではできないことなのですから、時間帯を飛び越えて、朝になったり夜になったりすると、絶対におかしくなるでしょう。それと同じことが、この現代社会の隅々まで起きているわけです。
〇〇症候群、〇〇障害という名称もどんどん増えています。狩猟採集社会であれば、障害でも何でもなかったことが、そう言われるようになったのです。
ちょっと昔なら、例えば、寡黙でぶっきらぼうな職人さんは「仕事の腕はいいけど、人付き合いのほうはダメでね」なんて言われるだけでした。ところが現代では、自閉症や、アスペルガー症候群などと診断されることもあります。こうなったのは、サービス業が増えたからでしょう。
同じように、うつも自殺も増えています。狩猟採集民には、自殺なんかありません。
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