老いた自分と対面「老化アプリ」想定外の利用価値 「未来の自分」を知ると人生が充実する不思議
これらの道徳的な行動に関する研究については、サンプル数が少なく、その効果も比較的緩やかなものだった。道徳的な行動を起こす要因にはさまざまな要素が絡んでおり、未来の自分の画像はパズルの1ピースにすぎない。それでも重要なピースである可能性はある。
未来をイメージさせると計画性が高まる
オランダの犯罪心理学者で私の共同研究者でもあるジャン・ルイ・ヴァン・ヘルターは、有罪判決を受けた犯罪者に老け顔の画像を見せる取り組みを行った。その結果、仮釈放に移行しても自滅的な行動(飲酒や薬物使用など)は減少が、暫定的ではあるが、確認されている。
「未来の自分」を可視化することで、人は自分自身をよい方向に変えられる。その内容も貯蓄から道徳的な行動、健康的な生活まで多岐にわたる。
未来の自分との対面は、小さな子どもにも影響を与えるようだ。就学前の子どもに未来の自分自身(といっても1日後だが)についてのイメージを思い描いてもらい、それについて説明させたところ、計画性が高まったという結果が出ている。
具体的には1泊の旅行に持参する持ち物について、適切な判断ができるようになったという。1泊旅行の計画は、豊かな老後生活への計画に比べれば単純なものだが、3歳や4歳の子どもの相手をした人ならおわかりのとおり、幼い子どもたちが将来の計画を立てるのは、大変なことだ。
こうした結果を受けて、大手企業も動き出した。メリルリンチは「フェイス・リタイアメント(Face Retirement)」というウェブサイトをつくった。
ユーザーが自身の顔写真をアップロードすると、60年後の老いた自分の顔写真が、そのころのガソリンの想定価格とともに表示される(そのころも化石燃料自動車を利用している可能性があるため)。同社は未来の自分について想像させることで、年金用の口座開設や掛金拠出のきっかけになると期待している。
だからといって画像は万能ではない。重要なのは老け顔の写真ではなく、その背景だ。
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