老いた自分と対面「老化アプリ」想定外の利用価値 「未来の自分」を知ると人生が充実する不思議

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たとえば顔写真を変換するアプリ「FaceApp」は2019年の夏ごろから話題を呼び、インフルエンサー、さらには世界中のSNSユーザーが自分の顔写真を加工した結果、SNSが「老け顔」の投稿であふれた。自分の写真が瞬時に老人に変換されるため、同アプリは大きなトレンドになった。

自分を変えるにも、人はラクな道を選ぶ

だからといってそうした人々が、年金口座の掛け金を増やしたり、ドーナツをやめてサラダを食べたりするようになったのだろうか。

おそらくそんなことはないだろう。社会心理学者は「水はもっとも単純な経路を流れる」ということわざを好んで使うが、単純な道を好むのは人間も同様で、人は歩きやすい道を選ぶものだ。

自分の好ましくない行動(衝動買いをする、長期的な貯蓄ができない)を変えたいのなら、軌道修正のためのプロセスは簡単でなければならない。しかし老け顔アプリの画像は貯蓄のためのアプリや食事管理のプログラムなど、手軽に利用できるツールと連動していないので、行動を変えるのは難しい。

さらに重要なのは、こうした老け顔アプリは老いた自分を知る契機にはなっても、それ以上のものではないということだ。研究者ダニエル・バーテルズとオレグ・ウルミンスキーは、行動を変えるために認識すべき点が2つあると述べている。

1つは、年月が経てば誰でも未来の自分になること。そしてもう1つは、現在の自分の行動が未来の自分の人生を左右すること、である。

そうした認識が十分にできていれば、老け顔の画像は行動を変える助けになるはずだ。メガネが視力を調整し、人工内耳が聴覚を補助するように、老いた画像は想像力を刺激し、未来の自分を重要視するようになり、共感力を高めてくれる。

つまり、未来の自分をより身近に感じさせてくれるツールであり、脳内タイムトラベル力をアップさせるための1つの戦略といえるだろう。

ハル・ハーシュフィールド UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメント教授

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Hal Hershfield

マーケティング/行動意志決定/心理学が専門。「未来の自己」についての研究で受賞歴多数。『ニューヨーク・タイムズ』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『ワシントン・ポスト』といった著名媒体で大きく取り上げられ、プルデンシャル・ファイナンシャル、消費者金融保護局、メリルリンチなど多くの企業・組織においてコンサルタントを務める。「幸福を最大化しつつ、人々を“今の自分”から“未来の自分”へと成長させるにはどうすればいいか」が研究命題である。

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