出戻り社員「アルムナイ採用」が増えた切実な事情 かつては"裏切り者扱い"も今や大歓迎だが…

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このようにアルムナイ採用は、人事部門・復帰するアルムナイ・復帰者を受け入れる職場のマネジャーやメンバー、と主要な関係者にとってメリットばかりの素晴らしい仕組み。“三方よし”と言えそうです。

改革を先送りするための隠れ蓑に?

ここで、筆者が引っかかるのは、日本でアルムナイ採用が中途採用の切り札としてやたらとクローズアップされていることです。

転職が盛んなアメリカでは、ニッチな業界だと結果的に採用者にアルムナイが多く含まれます(マッキンゼーの同窓会組織は有名)。ただ、あくまで本人の能力・実績を見て採用するのが基本で、アルムナイを好んで採用するということはほぼありません。

なぜ日本では、これほどまでにアルムナイ採用が熱を帯びているのでしょうか。そこには、アルムナイ採用で採用難の苦境をなんとかしのぎ、抜本的な改革を先送りしようという、“人事部の怠慢”が見え隠れします。

機械メーカー・K社のIT部門でDXを推進するSさんは、深刻な人材不足に悩まされています。DXのスキルを持つ社員は、K社よりも高給を提示する他社にどんどん転職していく一方、採用のほうは、年収の100%の仲介手数料を転職エージェントに払ってもなかなか人を採れません。

Sさんは、DX人材を中途採用するうえで、給与が最大のネックになっていると考え、人事部に「全社的な賃金体系に関係なく、優秀なDX人材には思い切った高給を提示するようにしたい」と訴えました。

しかし、人事部からは「IT部門だけを特別扱いするわけにはいかない。他部門も人手不足だが、何とか対処している。IT部門は努力不足ではないか。人事部では、アルムナイ採用やリファーラル採用(報奨金付き縁故採用)など新たな採用方法を取り入れて改善に努めている」とゼロ回答でした。

K社が特別かといえば、そうでもないでしょう。全社一律の賃金体系をかたくなに守り、採用市場を踏まえたフレキシブルで魅力的な賃金を提示できていない大手企業が目立ちます。

そういう企業の人事部門は、アルムナイ採用によって、抜本的な改革を避け、採用難の急場をしのぎ、“頑張っている感”を出すことができます。アルムナイ採用は、人事部門の怠慢を見えにくくする隠れ蓑と言えるでしょう。

もちろん、アルムナイ採用それ自体は、三方よしの素晴らしい仕組みです。素晴らしいからといって人事部門はそれにすがるのではなく、抜本的な賃金改革に踏み出す必要があるのです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。
Facebook:https://www.facebook.com/takeshi.hioki.10
公式サイト:https://www.hioki-takeshi.com/
 

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