昭和と令和「漫画家たちの生態」はどう変わったか 「まんが道」「バクマン。」「これ描いて死ね」

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「そっか…漫画って、自分で描けるのか」と目からウロコの安海。しかも、お目当ての☆野0のブースにいたのは、なんと彼女が通う学校の国語教師・手島零(てしま・れい)だった。マンガばかり読んでいる安海に「漫画なんてなんにもなりません!」「端的に言えば全て嘘なのです」などと説教していた手島だが、マンガを描く喜びも苦しみも知ったうえでの発言だったのだ。

驚きのあまり「先生、私に漫画を教えてください」と弟子入り(?)志願するも、手島は「嫌です」を繰り返し取りつく島なし。しかし、島に帰った安海は同級生の赤福幸(あかふく・さち)と2人で漫画同好会を作りたいと直訴する。そこで手島が出した条件が、「来週までに漫画を一本描くこと」だった。

1週間後、安海がノート1冊分描いてきたマンガは、ヘタクソでデタラメでツッコミどころ満載のシロモノ。が、にじみ出る創作の喜びと安海の満足げな笑顔に、手島は思わず感涙してしまう。かくして同好会設立は認められ、手島が顧問も引き受けることになったものの、設立には最低3名の会員が必要という。

そこに加わったのが、老舗旅館の娘で美術部所属の藤森心(ふじもり・こころ)だった。諸星大二郎を愛読するガチのマンガ好きで、絵は抜群にうまい。引っ込み思案で自分の気持ちをうまく伝えられない彼女だったが、安海のマンガに勇気づけられ、それを自分なりに描き直してみたマンガがきっかけで仲間となる。ここに、安海の原作を藤森が作画するという合作コンビが誕生した。

全編にマンガ愛があふれまくり

アイデアがユニークな安海、絵がうまい藤森、忌憚ない評を述べる赤福、さらに転校生で人気同人作家の石龍光(せきりゅう・ひかる)も加わって、漫画同好会は始動する。マンガの沼にハマる怖さを知っている手島は「あくまで趣味の範囲に徹し……『これ描いて死ね』などと漫画に命を懸けないこと」とクギを刺すが、ついつい本気で指導してしまう。コミティア参加に向けて本を作ることになり、安海と藤森の合作ペンネームは「赤福想」に決定した。

これ描いて死ね
とよ田みのる『これ描いて死ね』(小学館)ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル2巻p90-91より

コミティアで自分たちの本が初めて売れたときの彼女らの喜びようは最高で、見ているほうもテンションが上がる。手島の言動も含め、とにかく全編にマンガ愛があふれまくり。マンガ好きには号泣ポイントだらけで、電車の中とかで読むのは危険である。

3作に共通するのは、「読めばマンガを描きたくなる」という点。先日、81歳での漫画賞受賞が話題になったが(参考記事:「81歳で新人漫画賞」を受賞した漫画家の正体)、何かを始めるのに遅すぎることはない。プロは無理でもコミティアなどの即売会で自分の本を売ることはできる。マンガの世界は自由なのだ。

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南 信長 マンガ解説者

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みなみ のぶなが / Nobunaga Minami

1964年、大阪生まれ。マンガ解説者。朝日新聞読書面コミック欄のほか、各紙誌でマンガ関連記事を企画・執筆。著書『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』(ともにNTT出版)、『やりすぎマンガ列伝』(角川書店)、『1979年の奇跡 ガンダム、YMO、村上春樹』(文春新書)、『漫画家の自画像』『メガネとデブキャラの漫画史』(ともに左右社)など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。

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