津波需要で広がる原発ビジネス 中部電力・浜岡原発の防波壁工事

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 津波対策工事の総額は約1000億円。これには防波壁だけでなく、砂丘堤防の盛り土のかさ上げ、原子炉建屋への防水扉の設置、非常用電源の多重化なども含まれている。中電は1000億円の内訳を公表していないものの、かなりの部分が防波壁に費やされる見通しだ。

難所は「放水路」をどうまたぐか

では実際の工事はどのように行われるのか。工期短縮のせいもあり、中電はゼネコンへの発注を2つのブロックに分けて実施した。

西側半分、廃炉に向けた作業を進めている1~2号機側の建設を請け負うのが、鹿島と佐藤工業からなる「鹿島JV」。東側半分を請け負うのが、ハザマや大林組、前田建設工業からなる「ハザマJV」だ。

業者選定の基準は、第一に、地中連続壁基礎を造れること。佐藤工業をのぞく4社は、いずれも地中連続壁基礎協会の会員会社である。第二に、これまでの経験。原発敷地内での作業には制限事項が多く、従業員への入所教育が必要だ。これまで原発での工事実績がない業者をいきなり選定するのは難しい。

もうひとつ重要だったのが「放水路」の工事実績だ。今回の工事で最も難しいのが、原子炉を冷やすための海水が通るパイプをどのように避けるか、である。海から汲み上げた水を原子炉建屋へと運び込む取水路は、岩盤の中を走っているので問題はない。

 一方、冷却に用いた海水を海へ戻す放水路は、岩盤の“上”を走っている。1~2号機の放水路を建設した佐藤工業、3~5号機の放水路を建設したハザマはそれぞれ、今回の工事に不可欠だった。

工事は現在、昼夜24時間態勢で行われている。順調に進めば12年春から壁が立ち始める予定だ。ただ工期遅れの最大のリスクとして心配されているのが台風などの突風だろう。大型クレーンを用いた作業は、一定の風力以上になれば作業を中断せざるを得ない。ゼネコン側にとっても、スケジュール配分の難しい、きわめて難しい工事である。

もっとも難工事の後には、新たな機会が待っているかもしれない。巨大津波に耐えうる防波壁は、浜岡以外にも、全国の多くの原発や港湾などに求められている。今回の防波壁プロジェクトに参加したゼネコンの目の前には、大きなビジネスチャンスが転がっていると言えようか。
(週刊東洋経済2011年12月3日号より)

 

 

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