以上の数字を見ると、日本の銀行は極めて効率の悪い資金運用をしているように思える。しかしそれは、リスクを取らないために、必要なことなのだ。これを「まともな世界」と考えると、円キャリーが生み出したのは、それとは異質の世界だった。それが、ここ数年の日本経済を引っ張ったのだ。
では、円キャリー取引は、どの程度の規模だったのか? これについては、さまざまな推計があり、推計額には大きな差があるのだが、1つの目安になるのは、「緩和への慢心、市場揺らす」(2024年8月14日、日本経済新聞)という記事の中で、筆者のジリアン・テットが、次のように述べていることだ。
「国際決済銀行(BIS)は、国境を越えた円建ての借り入れが21年の終盤以降に7420億ドル(約109兆円)増加したと報告している。また、スイスの大手銀行UBSは、今年、5000億ドル前後のキャリートレード累積投資残高があったと推計している。」
約109兆円という残高は、極めて巨額だ。前述した三菱UFJ銀行2023年度決算説明資料によると、銀行単体での預金平残は189兆円だ。109兆円は、この半分以上になる。
これが仮に金利差4.5%程度で運用されたとすれば1年間で5兆円を超える利益をもたらしたことになるだろう。
「1ドル=153円以上にならない」ことに賭けたカジノ経済
円キャリー取引は、一見すると、契約時に確定してしまう金利差という条件で利益が決まるリスクのない取引(こうしたものを「裁定取引」という)のように見える。しかし、実はそうではなく、契約終了時の為替レートという不確実な条件に依存した、きわめてリスクの高い取引なのである。
この取引が利益を生むためには、将来の為替レートが一定値以上に円高にならないことが必要だ。なぜかを説明しよう。
今年の7月初め頃、為替レートが1ドル=約160円であった頃を考えよう。日本円で160万円を借りて1万ドルに変換し、それをアメリカの資産に投資したとしよう。
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