最近、『韓非子』を読み直していて、衝撃を受ける言葉があった。
「わかりながら言わないでいるのは不誠実だ」
〈私め、「わかりもしないで意見を言うのは馬鹿ものだし、わかりながら言わないでいるのは不誠実だ」と聞いております。臣下でありながら誠実でないのは死罪にあたり、意見を言ってまちがっているのもやはり死罪にあたるでしょう。とは言え、私め、聞き知るところを残らず申し述べましょう。罪にあたるかどうかは、大王さまのご裁決におまかせいたします〉(金谷治・訳注『韓非子 第一冊』岩波文庫、1994年、21〜22ページ)
ロシア・ウクライナ戦争、ガザ紛争、日中関係の緊張などについて、筆者は『週刊東洋経済』の読者に対して「わかりながら言わないでいる」という不誠実な姿勢を取っているのではないかという反省だ。
2022年2月のロシア・ウクライナ戦争勃発後、事実、当事者間の認識、評価を区別するという作法を新聞記者や有識者が忘れ、正邪の判断を先行させ、パッチワークを行う傾向が強まっていることに筆者は危機感を抱いた。
日本の政治・経済エリート層が主たる読者である『週刊東洋経済』においては、過去の歴史に学ぶことの重要性を説き、冷静に物事を考える環境を醸成しようと考え、連載の方向性もそちらにシフトしたが、その中で「わかりながら言わないでいる」という不誠実のわなに足をすくわれてしまったのではないかと感じるようになったのだ。
今後は、筆者の経験したソ連崩壊という歴史的出来事から学ぶインテリジェンスの手法を用いた情報収集と分析の方法を伝達することと、現下の日本の内政、外交に起きている焦眉の課題に関する分析について、適宜バランスを取りながら書いていくことにしたい。





















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