2025年ノーベル経済学賞研究は、シュンペーターが構想した創造的破壊という「物語」を最先端研究につないだ
──経済学研究の中心が北米である一方、ノーベル経済学賞はヨーロッパの問題意識で選ばれているということですか?
北米の研究者が選考委員になることも多いし、必ずしもそうとは限らない。ただ、選考はあくまでヨーロッパで行われていることだ。選考をめぐる会話の大前提、関係者の意識の片隅、あるいは重力の中心におのずとヨーロッパがあるというのは疑いない。「ヨーロッパとしてのメッセージ」という面はどうしてもあると思う。
そして今回は、モキイアが受賞者に入ってきたのが面白い。イノベーションを理論的・数学的なモデルに落とし込んだアギヨンとホーウィットだけでなく、モキイアの地道な歴史研究にも同時に授賞して、バランスを取ろうとした印象がある。
ちなみに、アギヨンとホーウィットの研究分野である「内生的成長理論」――技術やアイデアの蓄積を経済成長の源泉とし、その蓄積自体を内包した形で経済全体を描き出そうとする理論枠組み――では、2018年にポール・ローマーも受賞している。
ローマーは「アイデア」というものに着目した。アイデアがあって、それを出発点に生産活動が行われ、経済が成長する。そんなフワッっとしたレベルの話だ。
アギヨン&ホーウィットの研究はそこに、「産業界では企業間の競争が行われており、新参企業が新たなテクノロジーで既存の企業を置き換えていく」という、シュンペーターの提唱した「創造的破壊」のような話を加えた。産業組織論的な「不完全競争」の考え方を成長理論にまでつなげた点が新しい。
──学術的な分析の枠組みは、じわじわと発展していくものなのですね。
重要なのは、アギヨン&ホーウィットの研究が「創造的破壊」を、当時としては最も先端的なやり方で数学的なモデルとしてまとめたことだ。概念そのものは100年以上前からあったが、それだけではダメだ。
「創造的破壊」が、論理的な脈絡のないまま単なる刺激的なフレーズとして使われ、結果的に、無内容なコンセプトに堕落してしまう。




















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