「高校野球マンガ」50年の大変化に納得の理由 「プレイボール」「おおきく振りかぶって」そして令和は?

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試合場面においては、打者一人一人、一球一球の意図まで丁寧に描くため展開が遅くなるきらいはあり、連載開始から(休載期間を含め)20年以上を経てもまだ完結していない。2024年8月現在で単行本は36巻。イチから読むにはちょっとひるんでしまうボリュームだが、読み始めたら止まらない。2006年には第10回手塚治虫文化賞(新生賞)も受賞。現在に至るまで、スポーツマンガで同賞を受賞したのは、この作品のみである。

令和の名作『ベー革』

そして、令和の今読むべき最先端の作品が、クロマツテツロウ『ベー革』(2021年~)だ。タイトルは「ベースボール革命」の略。部活としての野球部の日常をリアルかつコミカルにつづった『野球部に花束を』(2013年~17年)、プロ野球スカウトを主人公にした『ドラフトキング』(2018年~)などで人気を得た作者が満を持して放つ理論派高校野球マンガである。

クロマツテツロウ『ベー革』(小学館)ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル1巻。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

兄が果たせなかった甲子園出場をめざし、入来ジローが入学したのは(兄とは違う)私立相模百合ヶ丘学園(通称:サガユリ)。若い乙坂監督の就任以来、神奈川県大会ベスト8の常連となり、直近の夏にはベスト4入りを果たした新鋭強豪校だ。

自ら坊主頭にして気合を入れ、やる気満々のジロー。ところが、進学校でもあるサガユリ野球部の練習時間は、なんと平日50分、土日は一日使えるものの月曜は休みという拍子抜けするものだった。

そんなぬるい練習では甲子園なんて絶対無理じゃん、とジローは落胆。しかし、初練習で見せつけられた先輩たちの身体能力の高さに度肝を抜かれる。そこにはジローの根性論的野球観が覆される世界があった。

「重要なのは練習時間じゃない。練習の質なんだよ」と言う監督がめざすのは、パワーと瞬発力でねじ伏せる野球。部員は全員がピッチャー経験者で、「ピッチャーをやらないヤツも全員150㎞/hを投げられるようにさせる」というのが監督の方針だ。それがどういう意味を持つかは本編でご確認いただきたいが、ジローならずとも「なるほど」と目からウロコが落ちるはずだ。

クロマツテツロウ『ベー革』(小学館)ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル1巻p82-83より

練習は当然、合理性重視。球速やベースランニングのタイムなどの数字をアップさせることをモチベーションにつなげる。筋力はもちろん柔軟性や野球に必要な動きを身につけることも重要だし、トレーニングと同様に栄養管理も大事。水分補給をこまめに行うのは当然であり、休息も欠かせない。故障の原因となる無理な特訓など論外である。

とはいえ、甲子園常連校はそうした合理的トレーニングに加え、技術向上のための反復練習も怠りない。そもそも選手層や個々の能力からして差がある。そんな超高校生級ぞろいの相手に、限られた練習時間でいかに対抗していくのか。

乙坂監督の“革命理論”は、野球に限らずビジネスの世界にも通用しそう。いまだ昭和の価値観に縛られている指導者(管理職)にこそ読んでほしい。

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南 信長 マンガ解説者

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みなみ のぶなが / Nobunaga Minami

1964年、大阪生まれ。マンガ解説者。朝日新聞読書面コミック欄のほか、各紙誌でマンガ関連記事を企画・執筆。著書『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』(ともにNTT出版)、『やりすぎマンガ列伝』(角川書店)、『1979年の奇跡 ガンダム、YMO、村上春樹』(文春新書)、『漫画家の自画像』『メガネとデブキャラの漫画史』(ともに左右社)など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。

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