「高校野球マンガ」50年の大変化に納得の理由 「プレイボール」「おおきく振りかぶって」そして令和は?

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練習中に水を飲んではダメという描写もあり、現在の常識から見ればありえない。しかし、社会人となった元キャプテン・田所の差し入れのアイスをみんなで食べるシーン、強豪校に勝ったごほうびにカツ丼(本当はうな丼の約束だったがお金が足りずカツ丼に変更)をおごってもらうシーンなどは、すこぶるうまそう。そんな素朴な生活感も魅力である。

平成の名作『おおきく振りかぶって』

昭和の名作としては『タッチ』(あだち充/1981年~86年)も忘れられない。前作『ナイン』(1978年~80年)も含め、あだち充の描く「熱血しない野球マンガ」は、ひとつの革命であった。プレーや勝利に重きを置かない“青春の1ページ”としての野球は、明るく軽いノリをよしとする時代の空気にもマッチした。

ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』(講談社)アフタヌーンKC1巻。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

平成に入ると、熱血スポ根はますますダサいものとなる。そこに登場したのが、ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』(2003年~)だった。

舞台は埼玉県のとある高校。できたばかりの硬式野球部に集まったのは、弱気で卑屈な投手・三橋、クールでクレバーな捕手・阿部、天然ボケの強打者・田島など、ちょっとクセのあるヤツばかり。そんな新設チームを率いるのは野球狂の怪力女監督……と、そこまでならば珍しくない。確かにそれぞれのキャラは立っているし、異常なまでに卑屈でそのくせ強情な三橋のキャラは野球マンガとしては新鮮だが、クセのあるキャラなら今までにもいた。

しかし、同作が斬新だったのは、キャラよりも競技としての野球そのものの描写が、極めて詳細かつ理論的であるということだたとえば、野球中継でよく言われる「ストレートがシュート回転する」とはどういうことかも、このマンガを読めば理解できる。トレーニングも科学的で、昭和の猛特訓とはまるで違う。

ストーリー的にも、ライバル対決で盛り上げるのではなく、メンタル面のケアや捕手のリードと投手の関係など、従来の野球マンガでは省かれていたものが、むしろメイン。選手のみならず、サポートするマネージャー、スタンドでのブラスバンドや父兄の応援の様子など、周辺状況も極めてリアルに描かれている。

ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』(講談社)アフタヌーンKC1巻p134-135より

心身ともに未熟な高校生が、野球選手としてのみならず人間としていかに成長していくか。選手同士の信頼関係がプレーにどう影響していくか。3年間という限られた時間の中で何をどうすれば最大限の結果が得られるか。全力で考え、努力する彼らの姿には目頭が熱くなる。

ひぐちアサ氏は、センシティブな恋愛ものや家族ものを描いていた作家だが、以前から高校野球が大好きで、長年取材を続けていたという。その成果と、持ち前の繊細な心理描写が相まって、従来にない野球マンガが誕生した。

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