スペインで人気ラーメン屋経営する日本人の素顔 「金もコネもない」30代男性なぜ成功できた?
まず、セレクトショップを辞め、バルセロナにあるうどん屋で1年半働いた。オーナーが、「うどん×ファッション」でアパレル業も経営していたため興味を持った。飲み仲間だったことも大きい。
飲みにいき、人と話す。アイデアを得て、思考を整え、行動する。下地さんの行動パターンはこれだ。
「いかんせん、自分には武器がなかったんで。やるなら、スペイン人から人気の高い寿司やラーメンが手っ取り早いかな、と思いました。寿司屋はたくさんあるからラーメンかな、と。バルセロナでもラーメンの波がきていましたし」
そこで、ラーメン屋の仕事の流れを知りたいと思った下地さんは、一時的に日本へ戻ることにした。2020年3月、新型コロナでスペインがロックダウンしたタイミングだ。
働かせてほしいと地元府中のラーメン店を訪ね歩くも、行く先々で断られた。唯一、受け入れてくれたのが、1日200杯を売り上げる地元では有名なラーメン屋だった。そこで約9カ月間、バイトとして働いた。
「ラーメン屋の1日と1週間の流れを見たかったんです。あとは、『日本のラーメン屋で働いたよ』という箔が欲しかっただけで。1週間くらいで辞めようと思って働いたら、9カ月経っていました」
2022年12月、「日本のラーメン屋で働いた」経験をひっさげ、再びスペインの地へと飛び立った。
無職、金なし、コネなしでの起業
勝負の舞台は縁もゆかりもないバスク地方のビルバオ。
場所の決め手は、徹底的に調べたわけでも誰かに勧められたわけでもなく、「なんとなく」。比較的寒い土地で、人口も多い都市がいいかな、と思った。それが、ビルバオだった。ビルバオはスペイン北部で最大の都市だ。
「美食で有名なバスク地方だったし、日本人がやっているラーメン店もない。ここだ、と思いました」
ビルバオでは、住む家も決めておらず、2週間ホテル暮らしをした。店舗の物件探しを始めると、意外にもあっさり見つかった。気に入ったのは、元ステーキ屋の物件だった。
「めっちゃ汚かったんですけど、冷蔵庫も何でもある。直すところがない。家賃は700ユーロ(約11万円)で激安物件でした。場所はどこでもよかったんで、ここでいいやって。ビルバオで初めての日本人経営のラーメン屋だし、多少話題になるかな、と」
物件を決めたはいいが、そこから話が進まない。
働くために必要なビザについては問題がなかった。当時スペインのビザに関する規定はゆるく、10年以上スペインに住んでいた下地さんは、すでに永住権を所得していたからだ。
日本で飲食店開業に必須の「食品衛生責任者」と「防火管理者」の資格においても、オンラインで簡単に取れた。しかし、それ以外にもやらなければいけないことが次から次へと押し寄せた。「物件が飲食店を営業する上で必要な許可があるのかどうか」やら、「保証金はこうだ」やら、事業計画書を作ったり、税理士を探したり、市役所で手続きをしたり、銀行口座を開いたり。正直、スペイン語は得意ではない。「もう少しゆっくり話して」と頼み、わからないときは図に描いて、説明してもらった。
ある日、全身にじんましんがでた。ストレスだった。
「今までできるだけストレスを排除してきたのに、意外でした。絶対できるって、自分のことは信じていましたけど、頭のどこかで不安だったのかもしれませんね」
開業のメドが立ったのは、ビルバオに到着して5カ月後のことだった。金融機関から最低限の融資を受けていた下地さんの開業資金は、約1万5000ユーロ(2022年当時のレートで約200万円)。内装にこだわりはなかったため、最低限の値段で抑えることができた。
2022年4月29日、「ラーメン・シモジ」がオープンした。
告知はインスタグラムのみ。下地さんの初めての起業は、やる気に燃えていたわけでもなく「とりあえずやってみるか」と始まった。
開店初日は、満席とまではいかなかったが、思いのほかお客さんが来てくれた。日ごとに来客数が増え、1週間後には満席になった。スペインのラーメンブームが下地さんの背中を押していた。
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