スペインで人気ラーメン屋経営する日本人の素顔 「金もコネもない」30代男性なぜ成功できた?

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オープンから1カ月後の5月。

「ラーメン・シモジ」が地元新聞紙に取り上げられた。小さい欄に載るのかと思いきや、大々的に1ページで掲載されたのだ。

その日から押し寄せる人の波が止まらなくなり、電話も鳴りっぱなし。下地さんは、ワンオペ営業で調理と接客に追われていた。

ひたすら仕込みに追われる毎日が続く。ランチ営業の後に片付けをして、終わったらまた仕込みをする。夜にまた営業して、片付けをして、気づけば午前2時になっていた。そのまま店に泊まり、朝起きて、シャワーを浴びるためだけに家へ帰る。そしてまた、店に戻り仕込みをする。
下地さんは「あれ……」と思った。

「これは違うな。求めていたのは、こんなのじゃない。こんなに働きたくない」

自由を求めて、開業したはずなのに。気がつくと、理想とは違う道を歩く自分がいた。

スペインは空前のラーメンブーム

新聞に取り上げられたのがきっかけで、開業から1カ月後には、常に満席の状態が続いた。ワンオペ営業で1日最大60杯の売り上げ。自身の給料としては、日本で働いていた時に比べて約2倍、スペインに来てすぐの頃に比べると約3.5倍に増えた。

開業してすぐに黒字になったのは、スペインのラーメンブームの影響が大きい。

スペインのラーメンブームにより、スペイン国内での「ラーメン」に対する認識が高まったことも追い風になったといえる。スペイン在住歴10年の筆者から見ても、スペインにおけるラーメン市場の発展は凄まじい。10年前には首都マドリードで1、2店舗ラーメン屋ができたと話題になっていたのが、2024年現在、20店舗を抱えるラーメンチェーンや個人店がスペイン全土に続々と増えている。スペイン大手の各新聞社でもおすすめラーメン店を紹介する記事や、ラーメンについての特集記事が掲載されている。

加えて、スペインからの訪日観光客の増加も大きな理由のひとつだろう。日本政府観光局(JNTO)の調査によると、過去10年間で訪日スペイン人観光客は、175%増加している。

日本の「ラーメン」を知るスペイン人が増え、人々のラーメンに対する舌が肥えたともいえるだろう。実際、日本人経営ではないラーメン屋で、スープがお湯のように薄味で醤油を入れて食べるものや、たくわんが丸ごと入っているもの、麺がどろどろにふやけた奇妙なラーメンも多く見かける。玉石混淆であるラーメン市場の中で、「日本人経営」というのは、ひとつの売りになっているといえる。

2店舗目の人気ラーメン「鯛ラーメン」13ユーロ(約2100円)。塩、味噌、しょうゆから選べる(筆者撮影)

「ラーメン・シモジ」がオープンして4カ月後の、2022年8月。経営が軌道に乗ると、「できるだけ働きたくない」下地さんは従業員を雇うことにした。

「もともと多店舗展開していく予定だったので、早く人を雇ったほうがいいなとは思っていたんです」

ラーメンを食べにくる日本人に片っ端から「働きませんか?」と声をかけていった。初期メンバーとして4人が加わり、そこから徐々に従業員の数も増えていった。

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