原始の地球上に「土」が存在しなかったという驚き 土はどこから運ばれ、どうやって作られたのか

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土と聞くと固相の無機物を思い浮かべますが、農耕にとっての土として重要なのは、有機物、水、空気です。

生きものを支えるのは水と空気と有機物であることは、誰もが知っています。これらを上手に生かせるように、土の状態を整えることが基本の基本です。

落ち葉、動物の死骸、ふんなどにある有機物を土中の微生物が分解し、植物に吸収される形にします。具体的な元素として窒素、リン、カリウムが最も重要です。そのほかもちろん炭素、水素、酸素が必要ですし、鉄、硫黄、マグネシウム、カルシウムも不可欠です。

これらの含まれ方は地域によって違います。土の多様性は、色にも現れます。黒、茶、灰、赤、白など……日本列島は黒や茶の、先にあげた成分を比較的豊かに含む土に恵まれており、幸せです。もっとも酸性という問題点はありますが。

土の中でのはたらきは直接目には見えませんので、目に見える作物や家畜をいかに思い通りのものにしていくかということが、よりよい農耕を求めての行動になりました。

農耕が生産性を高めるために、化学薬品を活用して自然を思うがままに動かそうとしたのはそのためです。これは正解ではなく、土に戻ることが不可欠ということにやっと気づいたのが、今なのです。

この方向で進めば、拡大志向の中で一律な大量生産を求める農業ではなく、地域性を重視する姿ができてくるだろうと期待します。

土は私たちの生活を支える基本

土は農耕だけでなく、生活全体に結びついていることはすでに述べました。狩猟採集から農耕への転換は定住を求め、住居が必要になりました。

まず穴を掘るところから始まる、土とのつき合いです。住居も土、現在も土木という言葉を使うように、日本の住居は長い間、木と土、それに紙を加えてつくってきました。

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日常の道具も石器から土器へと移ります。農耕に必要なのは、生きものがつくる腐植土のほうですが、家や土器に用いる粘土は鉱物です。腐植土から養分をもらって育った作物たちの実りを調理して、粘土でつくった土器(今は陶器や磁器)に載せ、みんなで美味しくいただくのが人間の日常であり、共食を楽しみます。

作物を育ててくれた土を含め、自然に対する感謝を込めて器に盛った食べものをカミさまに供えることもあります。

自然の霊たちとの共食であり、生活の中の大事な行事になってきました。こうして木とともに土は、私たちの生活を支える基本なのです。

今、住居や街づくりの土木も土から離れてコンクリートの世界になっていますが、これも土と木を意識した「生きものとしての土木」になる必要があることは先に触れました。コンピュータに不可欠な半導体を構成するシリコンは砂が原料といわれ、どこまでいっても土だなと思います。

中村 桂子 JT生命誌研究館名誉館長

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なかむら けいこ / Keiko Nakamura

1936年東京生まれ。東京大学大学院生物化学専攻博士課程修了。理学博士。国立予防衛生研究所をへて、71年三菱化成生命科学研究所に入り、日本における「生命科学」創出に関わる。生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始する生命科学に疑問を持ち、独自の生命誌を構想。93年「JT生命誌研究館」設立に携わる。早稲田大学教授、東京大学客員教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。『自己創出する生命』『生命誌とは何か』『科学者が人間であること』『中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌(全8巻)』『老いを愛づる』など著書多数。

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