19世紀にダーウィンが、「進化は変異をしたものの中から自然選択された個体が残ることによって起きる」ということを示しました。基本的にはこれが進化のメカニズムであり、この考え方をまとめたのが有名な『種の起源』です。
ダーウィンは、ビーグル号に乗ってさまざまな土地の動植物に接し、とくにガラパゴスでの体験から環境によって、生きものの形態や暮らし方が変わることを実感し、変異と自然選択という進化についての考え方をまとめたといわれます。確かにそうなのですが、ダーウィンは子どもの頃から身近な生きものをよく観察していました。
もちろんそこには野生の動物や鳥もいましたが、本当に身近だったのはイヌやハトなど、飼っている生きものたちでした。とくにハトについては、手に入る限りの品種を飼い、世界各地から標本も集めて、それぞれの違い――つまり変異を調べています。
当時の人々は、異なる姿形や性質を持つ品種の原種はそれぞれ別の野生種であると思っていたのですが、ダーウィンは自身の観察から飼いバトはどれもカワラバトの子孫であると信じるようになります。そして、そこには自然選択の力がはたらいていると考えたのです。
ダーウィンは、人間は自分の望みの性質や形を持つ個体をつくり出しているような気分になっているけれど、そこにはたらいているのは「自然選択」なのだということを見出しました。
ここにある自然という文字はとても大事です。機械の改良は、人間の望みとそれを可能にする技術とで思うように進められます。イヌやハトも、速く飛ぶハトが欲しいと思ったら速い個体を選んで掛け合わせをしていきます。
ただ、生きものの場合、望みの個体が得られるとは限りません。速く飛べてもけんかばかりしている個体では困ります。そもそもが自然の営為なので、なかなか思い通りにはなりません。
近年は遺伝子操作ができるようになりましたから、ダーウィンの頃よりは求める品種を得やすくはなりましたが、それでも遺伝子のはたらきが「自然」であることに変わりはなく、機械のようにはいきません。
生きものを対象にする時は、常にそこに「自然のはたらき」を意識しなければならないのです。それを忘れると大きなしっぺ返しがあると思っていたほうがよいでしょう。
ネアンデルタール人絶滅とイヌの関係
イヌについての興味深い話があります。
現存する人類はホモ・サピエンスだけですが、同時期にヨーロッパで暮らしていたネアンデルタール人は、なぜ滅んでしまったのかという疑問をめぐる話です。
ネアンデルタール人は脳も大きく、体格もがっしりしており、ホモ・サピエンスのほうがひ弱なのに、後者が生き残ったのは、猟犬がいたからだというのです。
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