ところが、150人を超えると、情報の流れが驚くほど鈍る(図2参照)。コミュニティが150人を超えると何かが変わる。日常的に出会うことがもはやなくなるのだ。
こうなると、人々はサイロを形成してその中でのみ話すようになる。それまで見事に調和し組織化されていた人々が、一夜にしてライバル意識と非効率に支配される。
言い換えれば、150人はコミュニティにとって最適な規模であるが、同時に成立させることが不可能な2つの機能間の妥協の産物なのだ。
つまり、150人は直接、間接を問わず相互作用できる人数の最大値である。そして、それを境に社会関係の効率または質が低下する人数でもあるのだ。
力学系の数学では、このような点は「アトラクター」と呼ばれる。それは何も力を加えなければ系が自然とそこに向かう点である。系がその点でもっとも安定するからだ。
組織を分割しながら成長させる方法
企業組織にかんする著書『想像力(Imaginization)』で、トロントにあるシューリック・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授で組織論が専門のガレス・モーガンは、観葉植物として人気の高いオリヅルランの比喩を用いて、つながった構造を壊さずに分割すれば、健全な成長が可能になると述べている。
オリヅルランは子株が親株から分岐することで分散した親─子ユニットから成る構造をつくる。これが健全なヒト組織のモデルだというのである。オリヅルランの一体感は、親株と子株をつなぐランナー(匍匐[ほふく]茎)によってつくられる。
ヒトの組織では、一体感は一連の最小限度の仕様(いわゆるミン・スペック)または行動原則、あるいは組織全体を結びつける共有された目的によって得られる。
モーガンによれば、これが会社を「不都合な状況」を乗り越えて何度も成長させる構造であるという。
(翻訳:鍛原多惠子)
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トレイシー・カミレッリ
オックスフォード大学研究員
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Tracey Camilleri
オックスフォード大学サイード・ビジネススクールのアソシエイト・フェローであり、オックスフォード・ストラテジック・リーダーシップ・プログラム(OSLP)のディレクターでもあった。サマンサ・ロッキーとともにトンプソン・ハリソンを創業した。キャリアの初期にはコンサルタントや銀行員、教師や起業家などさまざまな仕事に携わった。
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オックスフォード大学サイード・ビジネススクール・オープンプログラムのアソシエイト・フェロー。FTSEトップ10企業でABインベブに買収されたSABミラーでは、リーダーシップ開発部門のグローバル・ヘッドを務めていた。
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Robin Dunbar
オックスフォード大学の進化心理学が専門の名誉教授。マグダレン・カレッジの名誉フェローであり、ブリティッシュ・アカデミーのフェローに選出された。社会脳仮説や言葉の進化のゴシップ理論、ダンバー数(管理できる人間関係の上限は150人である)でもっともよく知られている。著書に『友達の数は何人?:ダンバー数とつながりの進化心理学』(藤井留美訳、インターシフト、2011年)、『人類進化の謎を解き明かす』(鍛原多惠子訳、インターシフト、2016年)、『ことばの起源:猿の毛づくろい、人のゴシップ』(松浦俊輔/服部清美訳、青土社、2016年[新装版])、『なぜ私たちは友だちをつくるのか:進化心理学から考える人類にとって一番重要な関係』(吉嶺英美訳、青土社、2021年)、『宗教の起源:私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』(長谷川眞理子解説、小田哲訳、白揚社、2023年)がある。
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