消費者庁が激オコ「激安居酒屋チェーン」の実態 名物皮串は50円(55円)から、「新時代」とは?
一方、こうした新時代のいかがわしさは、もちろん負の側面もある。例えば、それはコロナ禍のときによく表れていた。
多くの飲食店が時短営業や、営業自粛を求められる中、「新時代」は営業を継続。逆にコロナ禍によって増えた空き物件を活用して、店舗数を増やしていったのだ。このコロナ禍での出店拡大について、「新時代」を運営する株式会社ファッズの代表取締役社長・佐野直史氏は、なかなか開けっぴろげに本音を語っている。
彼は元々プロのサッカー選手で、ブラジルにサッカー留学をした経験を持っているのだが、留学先でウイルスの蔓延に多く触れたことで、新型コロナウイルスが流行し、日本が未曾有の自粛社会になったときも、「今がチャンス」と思えた……と言うのだ。
こうした考えの道徳的な是非については、本稿では論点ではないので、ここでは触れない。事実として言えるのは、コロナ禍で空いている居酒屋は限られており、営業を継続、また出店を拡大したことが、「新時代」の今の躍進につながっているということだ。
現在は「清潔」すぎる社会なのか
コロナ禍での事例を併せて見ても、「新時代」の経営スタイルは、賛否を恐れていない。ただ、コロナ禍でそこに人が集まり、現在でも多くの人が集まっているように、結局、「新時代」的なものを求める消費者がいる、という事実がある。
こうした背景には、特に近年の都市空間において、「新時代」が持っているような「猥雑さ」や「いかがわしさ」が無くなりつつあることが挙げられるだろう。
精神科医の斎藤環は、コロナ禍で起きた人々の衛生意識を「コロナ・ピューリタニズム」と表現した。ここでは「他人に触れてはいけない」ことが大きく前面化し、「清潔であること」が一つの倫理観となったという。猥雑さとは正反対の方向に社会が進んでいるのだ。
これはコロナ終息後でも進んでいることだ。私たちは過度に「きれいなこと」や「正しいこと」に気を取られるようになり、少しでもそこから外れると、すぐに炎上騒ぎが起きてしまう。
一方、斎藤は、こうした「コロナ・ピューリタニズム」のときに提唱された「清潔で正しい」生活について「まことに味気ない」とも書く。みんなはっきりとは言わないけれど、まったくその通りだろう。猥雑でいかがわしいものが何もない、清潔で正しい生活は、味気ない。
その意味で、こうした「いかがわしさ」を提供してくれる空間は、意外にも需要があるのではないか。「新時代」はこうした人々が潜在的に持っている(でも、なかなか表立ってはいえない)ニーズをうまく汲み取っていたといえる。
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