(第19回)囲い込みとすみ分けの「蛸壺経済」体制

ただ問題は、そのために多大のコストを負担していることだ。日本の電気料金はアメリカのほぼ2倍である。これだけのコストを支払ってまで、「停電皆無」を実現することは必要なのだろうか? 複数の供給主体が存在する場合には、電力利用者がその判断をすることになる。しかし、地域独占下では、そうした選択を行うことはできない。

すみ分けは供給者に過剰な利益をもたらす。競争があれば発生しえない「レント」(超過利潤)である。これは外部者には見えない。東京電力がどれだけ巨額のレントを享受していたかは、福島原発の事故で東電が生体解剖されることによって、初めて見えるようになってきた。

現代日本の企業集団は江戸時代の藩に似ている。生活の糧は藩によって提供され、付き合いや行動範囲、昇進などは、藩の内部に限定されていた。だから、藩の論理が幕府の論理に優先した。こうしたメンタリティは忠臣蔵に見事に表われている(幕府が決めた規則に違反して処罰されたのに、幕府に抗議するのでなく、規則に背いて直接の復讐を行い、それが「忠義」とされている)。

明治維新によって藩は解体されたが、長州閥、薩摩閥などの形で残った。経済の近代化が進むにつれてそうした勢力は消滅したが、それに代わって形成されたのが、旧財閥系企業を中心とする企業グループ体制だ。戦後の日本では、これに加えて電力会社や自動車メーカーを中心とする企業グループが形成された。

囲い込みとすみ分けの安定した状態を破壊するのは技術である。PCの場合には、まさにそうした事態が発生した。スマートフォンは日本のすみ分け体制を壊そうとしている。スマートグリッドの進歩は、電力の地域独占体制を正当化する論理を破壊する可能性がある。

1990年代以降の技術は、日本に不利に変わってきた。ITはその最たるものだ。それは、囲い込み・すみ分け文化とは親和性がないのである。だから、日本は対応できなかった。

実は、そうした変化がIT以外の分野でも生じる可能性がある。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年10月22日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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