(第19回)囲い込みとすみ分けの「蛸壺経済」体制

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そのほかの分野では、電力におけるほど「すみ分け」は安定的でない。だから、蛸壺間の競争は起きる。ただし、その場合の目標は利益ではなく、シェアになる。つまり、勢力圏の拡大が重要な課題だ。

なお、右の三つの条件のすべてが必要条件というわけではない。事実、携帯電話の場合、第一条件は満たされているが、第二条件は満たされていない。携帯電話は、本来はPCと同じように互換性があるものだ。SIMロックは、互換性をなくすための人為的な手段である。

また、それぞれの蛸壺の中も、決して均一ではない。派閥があり、部門間の対立があり、複数の専門家集団間の争いがある。だから、すみ分けは多層構造をなしている。ただし、部外者の立場からは、「企業グループ」という一つの蛸壺に見える。

さらに、日本語がかかわってくると、「囲い込みとすみ分け」が生じやすくなる。外国との競争が起こりえないからである。この点は、マスメディアにおいて顕著に成立している条件だ。

「競争は悪であり安定と秩序こそ重要」

囲い込みとすみ分けのシステムにおいては、競争は悪として否定される。それを表すため、しばしば「過当競争」という言葉が使われる。

競争否定を正当化するために用いられるのが、「安定と秩序」だ。その反面で、競争がもたらす発展可能性と効率化は無視される。

電力の場合には、「安定的な電力供給」が金科玉条とされる。「停電が一切生じない電力供給は、地域独占によってこそ実現できる」との論理だ。スティーブン・キングの小説を読むと、メイン州の田舎町で、人々は裏庭に自家発電機を準備して、停電に備えている。こうした状況に比べれば、停電がない日本の電力事情がたいへん恵まれていることは間違いない。

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