(第19回)囲い込みとすみ分けの「蛸壺経済」体制

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顧客の囲い込みはより緩やかではあるものの、マスメディア(全国紙と系列テレビ局)、金融機関を中心とする系列、電鉄と不動産開発事業などにおいても、同様のすみ分け構造が見られる。製造業でいえば、自動車メーカーと系列部品メーカーが、強固な垂直統合企業グループを形成している。

つまり、「ガラパゴス諸島」にたとえられる日本列島は、自由に動き回れる広場のような空間ではなく、大小の蛸壺が並んでいる場所なのだ。蛸壺から首を出して外を見たり、出歩いたりすることは可能だが、グループの構成員の生活の糧は、蛸壺においてしか得ることはできない(その意味では本物のガラパゴス諸島より不便な場所である)。

「囲い込みとすみ分け」を可能とする三つの条件

もちろん、壺に入れてもらえない人もいる。彼らはポジティブにいえば「自由人」だが、その実体は「はぐれ者」ないし「部外者」だ。あるいは、「非正規労働者」と呼ばれる場合もある。

「囲い込みとすみ分け」は、次の三つの条件下で可能になる。

第一は、国内市場の規模が十分に大きいことだ。すなわち、分割された各市場が、採算のとれる経済活動を可能にするだけの大きさを持っていなければならない。

第二の条件は、標準化やモジュール化を妨げる技術的要因があることだ。あるいは、新規参入を困難にする技術的・自然的制約が存在することである。そして、第三の条件は、技術が安定的であることだ。

電力においては、この三つの条件が典型的に成立している。第一条件についていえば、各電力会社の管内は十分に大きい。第二条件として、周波数の違いが西と東を分けているし、島国であるために外国から送電線を引けないという事情がある。これは、ヨーロッパや北アメリカ大陸との大きな違いだ。そして、第三に、これまでは大きな技術変化はなかった(ただし、スマートグリッドという新しい技術は、大きな変化をもたらす潜在力を持っている)。

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