ディストピア化?シンガポールの食が凄いことに 食料自給改善へ都市国家が取り組んでいること
昨年10月に、私はこのフライドポテトとサンドイッチを試してみた。味は良かったが、「鶏肉」は細かく刻まれ、マスタードドレッシングでたっぷりとコーティングされているため、十分に吟味することは難しかった。
フーバーズで提供される「鶏肉」の生産は、小さな細胞のサンプルから始まる。このサンプルは、地元企業のエスコアスターが運営する工場で、バイオリアクターと呼ばれる温度制御されたステンレス製容器に投入される。
鶏が食べる栄養素を反映して、アミノ酸、脂肪、ビタミン、ミネラルの混合物を与えられ、かなりの数の細胞が培養されると、シンガポールのフードテック・イノベーション・センターで植物性タンパク質とともに収穫され、処理される。
「食の安全保障」への不安がきっかけ
フーバーの経営幹部アンドレ・フーバーは、グッドミートが最初に出したチキンナゲットは好きになれなかったと打ち明けた。ところが、それから18カ月が過ぎた2022年9月、同社のチキンブレストを試してみたところ、食感が「本物の80〜90%くらいに近づいている」ことがわかった。
そして、こう付け加えた。「味はずばりそのもの。つまり、鶏肉と同じ味がした。完全に本物のようだった」
シンガポールは、将来の安全保障への不安を常に抱えている。かつては水が最大の関心事だったが、今では食料がそれに代わっている。最近では、シンガポールにとって最大の食料調達先の1つであるマレーシアが、新型コロナウイルスの流行期に鶏肉の輸出を禁止したことで危機感が高まった。
こうした理由から、シンガポール政府は代替タンパク質生産の実現性を高めることに力を入れている。研究助成金の募集を行った際に、シンガポール食品庁は2030年までに培養肉の生産費用を1キログラム当たり120ドルから1キログラム当たり6ドル〜17ドルに削減することを「野心的な」目標とした。