国内市場だけに依存している事業の多くは、日本経済の縮小とともにこの先縮んでいくのは明らかだ。
かといって、すぐに事業自体が消えてなくなるわけではない。それが厄介だ。
「緩慢な衰退」は思い切った打ち手を講じることができず、組織を徐々に蝕んでいく。しかし、成長が見込めない事業、収益改善が期待できない事業、赤字事業を放置することは悪である。
それがわかっていながら、多くの日本企業は大胆な事業ポートフォリオの見直しを進めてこなかった。
それは、経営管理だけの話ではない。赤字からの脱却が見通せない現場にとって、それは自分たちの存在意義を問われ、プライドを喪失させる深刻な事態なのだ。
「黒字化プレッシャー」に追い込まれる現場
品質不正を起こした企業で見られる特徴のひとつは、赤字事業もしくは低収益事業で不正が起きているということである。
競争力が弱く、低収益・低採算に苦しむ事業を営む現場が、不正に手を染めやすいという構図は明らかである。
高収益事業、成長事業で不正が起きるケースはまれである。投資体力があるので、新たな設備を増強したり、人員補充が比較的やりやすかったりするので、現場があえて不正を犯す理由がない。
一方、赤字事業、低収益事業は上からの「黒字化プレッシャー」は強いが、新たな投資を行うことができず、追い込まれてしまう。
品質不正を起こしたある工場の班長は、こう切り捨てた。
「これ以上のコストダウンは限界だ。営業や上の人間に値上げの必要性を訴えても、『仕事が切られるかもしれないから』と及び腰だ。
工場長は『限界利益は出ているから』と正当化するが、先のない事業なのは、みんなわかっている」
もちろん新規事業の立ち上げ時のような「健全な赤字」もある。
しかし、長い間営んでいる事業が収益を上げられないという事態を放置することは、経営の怠慢以外の何物でもない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら