「スバル」快走の陰に外国人労働者の苦悩 アジアやアフリカからの難民申請者が就労
スバルの系列メーカーで働くバングラデシュ人のアブ・サイド・シェク氏(46)は「違法労働」の状態にある。入国者収容所から仮放免されている立場ながら、同氏は週に6日、1日最大12時間もダッシュボード部品や他の内装パーツの塗装作業を行っている。彼自身がスマートフォンで撮った自分の写真には、塗料の臭いを防ぐためにマスクをしている姿が映っている。その場所については本人が特定しないことを希望した。
同氏は、ダッカの裁判資料の英訳によると、本国で爆発物に関する法律違反で起訴された。難民認定申請書で、同氏は容疑がねつ造であり、野党のメンバーだったために標的にされたのだと主張している。法務省の書簡によると、2度目の難民認定申請は2012年に却下された。同氏はその後も再度申請し、最終判断を待っているという。
常に入国管理局の監視下にあり、ひっそり暮らしてきたと同氏は話す。だが、仮放免されている難民申請者は、帰国もできず、働く事もできないという事実上、身動きが取れない状況にある。
「私には働く権利も保険もない。正式な住所もなく銀行口座もない。日本政府にとって私は存在しないのと同じだ」。
「日本にいなくてはならないし、そのためには食べ物を買う金が必要だ」。他のバングラデッシュ人と同居しているシェク氏は言う。「私が欲しいのは人間としての待遇だ。犬扱いじゃない」。
これに対し、富士重工は不法移民を雇っておらず、下請けメーカーでもそうした作業員は確認できないとしている。太田市の下請けメーカーはトヨタ<7203.T>や日産<7201.T>、ホンダ<7267.T>など他の自動車大手にも部品を供給している。トヨタも日産も難民申請者を雇っていないと述べたが、下請けメーカーによる難民申請者の雇用についてはコメントしなかった。日産は約50人の技能実習生を雇っていると答えた。ホンダはコメントを拒否した。
外国人なしでは車ができない
米国で人気を博すスバル車の成功は、安倍晋三政権が進めるアベノミクス経済政策のモデルケースだ。円安の追い風を受け、スバルの米国内販売シェアはBMWやメルセデスを抜き去った。富士重工の株価は2012年末の時点から4倍も上昇。ロイターが計算したところ、フォレスターは単独で年間36億ドルを売り上げる輸出マシンとなった。
フォレスター人気のおかげで、富士重工は営業利益率で日本の自動車メーカーのトップに立った。また安倍首相の経済政策により、輸出企業が円安の恩恵を受けて利益を伸ばす顕著な例となった。
規模の大きい競合他社とは違い、富士重工は海外で販売する自動車の約80%を日本で製造している。このメード・イン・ジャパンを貫く姿勢が、同社や約260社の下請けメーカーの多くが太田市の工場群で部品需要を満たすのに困難をきたす原因となっている。
太田市の清水聖義市長は「外国人がやらないと、現実に、車は部品から何から絶対できない」と指摘。市長は過去、同市を外国人労働者特区に指定するよう申請活動をしてきたが、実を結んでいない。
清水市長はインタビューで、ロイターが把握している移民労働者の過酷な実態について認識していないとした。ただ、派遣業者が労働者を国の社会保険に加入させないと、市が支払う生活保護など福祉手当の財政負担が増えかねないとの懸念を示した。
政府は2010年、難民資格の希望者に対し、認定申請書を処理する間、6カ月更新の就労許可を与えることを決めた。それ以来、申請件数は4倍に跳ね上がり、昨年は5000件を記録した。ネパール、トルコ、スリランカの出身者が特に目立つ。しかし過去4年間の承認件数は毎年20数件にも満たない。
法務省入国管理局の丸山秀治氏は、外国人が日本の入国管理システムの抜け道を利用していると批判し、「最近は難民申請すれば働けるというような話に広まってしまっている」と話す。
自民党の河野太郎議員は5月28日、外国から「安い労働力」が入ってくるのを許さないという政府の方針は「大きなウソ」だと批判した。同議員は日本の移民政策には「裏口」があるとし、「裏口のドアを閉め、就労許可の発行を始めるべきだ」と述べた。
2010年に始まった「難民認定」申請者への暫定的な就労許可は、本来、人道的措置として実施されたが、それが今、スバルの下請けメーカーのような企業に割安の労働力を提供する手段へと姿を変えている。