"空の巣症候群"を救った98万円温泉付マンション 子育て卒業直近の小説家が伊豆で二拠点生活

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思い出せ。自分の夢や希望を。それは生きるためにまだ必要だ。コロナ禍真っ最中に、私はかつて当然のように抱いていた「私単独の夢」についてぼんやりと思いを馳せていた。人生100年時代がやってきた。

ならば私はまだ半分を折り返したにすぎない。余生というにはあまりにも長い時間をこれからどう過ごそう。そもそも私ってどんな人間だったっけ。人間は忙しすぎると、自分すら忘れてしまう。

夢は「私だけの秘密基地をつくること」

「なんかよくわからないから、秘密基地をつくろう」

夢を叶えるにも、夢をもつにも、健康が第一だ。17年前と大きく違っているのはとにかく健康状態。薬がないと眠れないひどい睡眠障害に運動不足、始まった老眼、生理不順、そしてフリーランスという不安定な収入と、そのせいで不安定になるメンタルだった。

夢なんて思い出せないけれど、まずはとにかくこれを解消するんだ。さあどうすればいい?

「よーし、温泉を買おう」

私は自分の愛するものについて、ずっと愛してきたものに対して、まるで遺跡から奇跡的に割れずに形を保っていた土器をそうっと掘り起こそうとするかのように思い出した。そうだ、私はお風呂が好きだ。温泉が好きだ。毎日お風呂だけが楽しみで、長湯をしたってちっとも辛くない。お湯が冷めたら追いだきしながらお風呂でドラマをだらだら観るのが好きだ。

ここで思いついた。「だったら追いだきしないでいい、温泉を買えばいい」。どうせ数年コロナで海外には出られないんだし(とその時は思っていた)、コロナが明けたら息子は受験であっという間に家を出ていく。今から少しずつ距離をとりながら、忘れていた自分への投資をはじめよう。

そんなわけで、最初はおそるおそる一週間、民泊で部屋を借りてみた。たしか大分の別府温泉だったと思う。海があって、観光地ながら適度に落ち着いていて、フェリー1本で関西からアクセスできてとてもよかった。

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