"空の巣症候群"を救った98万円温泉付マンション 子育て卒業直近の小説家が伊豆で二拠点生活

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子育てに明け暮れたアラフォー時代、コロナ禍で3年ほどスキップしたような感覚に世界中が陥る中、私はまた別の、形容しがたい期待と不安に襲われていた。「もしかして、子育てが終わるかも?」という予感だ。

予感もなにも、子は育つのでいつかは終わる。しかし出産してから永遠のような子育ての大海に浸っていたから、いざひとりで陸地へ向かえといわれても呼吸の仕方を忘れているものなのだ。息苦しいような、寂しいような、楽しみなような「終わる」感。ああこれが世間でいう空の巣症候群というものか、と悟った。

二拠点生活 SUUMO
(イラスト/いまがわ)

前述のように我が家の息子氏はなかなか手のかかる子どもだったので、私も夫も人生のほとんどを子どもに全ぶりして生きずにはいられなかった。さてそれがめでたくも終わることとなり、私は彼がこの世に生まれてくる前にどんなふうに暮らしていたか思い出そうとした。

17年前である。もう記憶にない。そして思い出しても戻れるものでもない。あのころ私はだいぶ若かったし、体力もあったし、もうちょっと夢や希望や野心にあふれていたように思う。

「子ども」を切り離した「私」って?

「っていうか、夢とか希望って、なんだっけ」

子どもができて、それらはすべて「子どもの」夢や「子どもの」希望にすり替っていった。いつだったか4歳までしゃべらなかった息子と二人、療育に通いながら「問題なく学校生活を送れるようになりますように」「息子に友達ができますように」と夢を見た。

幸運にもそれらが叶ったときには希望が生まれた。「もしかしたら大学にいけるかも……?」それはたしかに私の夢や希望であったけれど、私単独のものではなかったのだ。

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