──一方の佐治さんは養子に出される体験をします。
おやじのビジネスの失敗で資金手当てのため養子に出された。そうされたときの心の傷はいかばかりか。評伝作家として、偉大な経営者といえども、その人物を描くときは心の傷も書かなければいけない。その中の一つとして、養子に出された心の傷は彼の中で実に大きかったことを発見した。逆に彼はそれに触れたがらない。このことに彼の人生の謎を解く大きなカギが隠されていた。
二人とも一皮も二皮もむける経験をしたから、それが力をもたらした。つまり、今壁にぶち当たっている人はそれを越えるのが次のフェーズに行く重要なカギだという意味では、壁にぶつかったことを好機と楽しめと教えていることになる。
企業経営者をコピーライターが支えるという面白さ
──この本を今のタイミングで書いた理由ですね。

東日本大震災を経て、あらためて日本に元気を取り戻させるような人物はいないか考えてみた。一人が既刊の小林一三、もう一人がこの佐治敬三だった。彼の人生を調べていくと、一人でここまでの人物になったのではない。支えてくれた人々がいる。父親もそう、母親も兄も、たくさんの人がいた。特に専務、社長となってから彼を支えた人物として、合わせ鏡のように開高健という存在が大きくなっていったとわかった。
企業経営者をコピーライターが支えるという面白さ。開高健が亡くなったときに経営者の佐治が平社員に畏友という言葉を使って弔う。経営感覚などまったくなく異質な存在だが、自分と同じような心の傷、繊細さを持ち、同じ大阪人でもある。そういうところに佐治は癒やされたのだろう。
──感性が共通した?
こそこそすることなく堂々とカネ儲けをする、それもスケール大きく。そのためにはライフスタイルを変えるぐらいの大きなウエーブを起こす。「サントリー文化」とさえいわれる。美術館やホール、さらに文化賞、文化人。同時によくいわれるように、日本の夕方文化も変えた。
これは重要な意味を持っていて、ウイスキーをたしなむとき琥珀色の向こうにブランドイメージを飲んでいる。つまり、サントリーというブランドイメージが高ければ高いほど飲む人の気持ちもこもってくる。欧米の風や豊かさ、さらにはサントリー文化的な高尚さを感じる。そういうものまで作り上げていった。まさに大きく儲けるためにライフスタイルから文化まで作った。このスケール感。感性の面からそれを支えていた、開高健も大きい人だったなと感じる。
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