強烈な「私情」が、仕事力を極限まで高める イノベーションを起こすには「公私混同」せよ

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キリギリスの価値観はこれとは真っ向から対立します。「個人重視」のキリギリスにとって、「劇中の自分」と「素の自分」は境目があまりなくなっています。遊んでいるときでもつねに仕事を考え、仕事も楽しんでやっているので、「おカネのためにやっている」という感覚も希薄です。キリギリスの辞書に「ワークライフバランス」という言葉はありません。そもそも「ワーク」と「ライフ」は一体化しており、「バランス」させる対象ではないからです。

このような仕事に対する根本的なスタンスの違いが、冒頭のアリ田課長とキリ山くんとのかみ合わない会話につながっています。前提となる基本的な認識が異なるので、キリ山くんがこれ以上、何を言っても建設的な方向に行くことはないでしょう。

それでは、このような根本的なジレンマがある中で、「アリの巣の中のキリギリス」はどのように振る舞えばいいのでしょうか? キリギリスが「複雑なアリの巣の中で死なないためのアドバイス」として、以下の3点を挙げておきます。

キリギリスは辺境でチャンスを見いだせ

ひとつ目は、このような「2つの価値観」の衝突を単なる現象面でとらえるのではなく、「なぜ、どういうメカニズムで起こっているのか」を理解し、それを関係者間で共有することです。単に「あの人と話をしても通じない」と言うだけではなく、相手の思考回路を理解しようとすることが重要です(実際問題、アリがキリギリスの思考回路を理解するのは限りなく難しいのですが)。

2つ目は、キリギリスとしては、なるべく「アリの巣の価値観」が弱いところで活動するほうが、「個性」を生かせる可能性が高いということです。たとえば、「稼ぎ頭の事業部」よりは赤字の事業部、本社よりはなるべく本社から遠い出先、親会社よりは子会社といった環境です。

アリの価値観からすると、いずれも出世からは遠ざかって(むしろ「左遷」に近く)、否定的に考えられがちな環境かもしれませんが、よくも悪くも注目されていない分、それを逆手にとれば、キリギリスにとっては格好のチャンスとなるかもしれません。

本当はキリギリス型を自認する人は「アリの巣から出てしまう」のが、価値観の衝突を回避するにはよい方法なのかもしれませんが、「そうもいかない」ということであれば、あえて「辺境」で生きようとすることはより現実的です。

最後の3つ目ですが、このような価値観の違いや自分の考えが理解されない環境を「受け入れる」ことも重要です。そもそも昔から、大きな改革を成し遂げたり、画期的な商品やサービスを生み出した人たちは、初めは世の中の嘲笑を浴びたり、既存の組織や体制派と衝突して、それを乗り越えた人たちばかりです。

神様はイノベーターたちに、あえてそのような試練を与えているのではないでしょうか?「その程度の障害が乗り越えられないで、イノベーションなんかを語るな!」と。

細谷 功 ビジネスコンサルタント、著述家

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ほそや いさお / Isao Hosoya

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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